追悼 リック・ライト

 帰宅して新聞を開いたら、リック・ライトの訃報が掲載されていました。65歳、ガンだったそうです。
 ピンク・フロイドシド・バレット、そしてロジャーとデイヴと、キャラクターも込みで巨大な才能が3人もいて、リックとニックはあまり語られることのない存在でした。他のブログレミュージシャンのような「曲芸的テクニック」がないフロイドのメンバーは、そうした方面からもスポットが当たりにくかったです。
 でも今、フロイドの作品を聴き返すと、その音楽を成立させているのは間違いなくメンバー全員の力だということがわかりますし、リックやニックの力量も、フロイドの音楽には必要かつ十分だったことがわかります。フロイドがその初期からコンサートでの音響に対して非常に気を遣っていたことは有名ですが、そうした活動の中では、リックのあの、不思議な浮遊感を持ったキーボードはとても重要な働きをしていたと思います。スタジオでも、例えば「Wish You Were Here」ではストリング・シンセによるオーケストレーション、テクノの源流のようなミニマルビート、タイトル曲での味わいのある生ピアノと、アルバム全体のトーンを決定づけるような大活躍をしています。超人的なソロをとるわけではないけれど、そしてコンセプトという意味でイニシアチブをとるわけではないけれど、ふと気づくと「フロイド的な雰囲気」はこの人から生まれていたのでは、と思わされます(彼が不在の「Final Cut」が少なくともテイストとしてはフロイドらしくないということを考えても、僕の言わんとするところはご理解いただけると思います)。僕は「Atom Heart Mother」に収録されていた「Summer’68」という曲が大好きなんですが、この曲を聴くだけでも、リックの才能はよくわかります。
 ロックの世界も年々鬼籍に入られる人が増えてきました。プログレは比較的健在の人が多く、みんなそれぞれがんばっているジャンルですが、そこからも近年はこうした悲しい知らせが届くようになりました。リック自身は、ある意味で「立派な仕事をやり遂げ、悠々自適にセカンドライフを生きていた」という人生だったと思いますが、それでも残念な知らせであることに変わりはありません。
 今はこれを書きながら「Wish You Were Here」を聴いています。僕はこのアルバム、そしてタイトル曲は70年代ロックの最高傑作のひとつだと堅く信じていますが、ここで総てを包むように鳴り渡るキーボードの音色は、他のどのレコード(フロイド自身のものも含めて)からも感じられない暖かさと怪しさを持ったものだと思っています。謹んでご冥福をお祈りいたします。

Wish You Were Here

Wish You Were Here