田中希代子を聴きながら思う

 先週から風邪気味、なのに仕事は休まず、家事も休まず勤しんでいたら、僕ではなく妻の方が風邪で具合が悪くなってしまいました。今日は病院に行ったとのことで、山ほど薬を処方されて帰ってきました。ドレミはママとお風呂に入れないでのご機嫌ななめ。今10時過ぎですが、僕以外はもう寝息を立てています。
 今日は仕事絡みで午前中は外出、というか、「災害時に徒歩で帰宅できるかシミュレーション」というイベントの当番で、自宅から職場まで歩きました。大体3時間ほどで歩ききりましたが、風邪気味だったのでちょっとへばってしまいましたね。自分としては変にがんばって明日以後筋肉痛になってもいやなのでぼつぼつ歩いたつもりなんですが。
 で、歩いている間、ずっとiPodで音楽を聴いていました。最初はアート・ガーファンクルの「Angel Clare」。もう25年くらい聴いていますが、まったく飽きません。今日も秋晴れの国道沿いを歩きながら聴いていると、アートの歌声が沁みるようでした。このアルバムについては、いつかちゃんと書きたいと思います。
 帰り道はクラシック。田中希代子の「ラフマニノフ・ピアノ協奏曲」オケは日フィル、指揮は渡邉暁雄。この人については僕はほとんど無知で、たまたまお店で手に取ったCDに興味を惹かれて購入したんですが、見事に当たりでした。オケの演奏自体は多少荒いところもあり(時代を考えたら当たり前)1965年の録音もやや旧い響きですが、情熱的ないい演奏です。バイオなどを読むと、戦後初のショパンコンクール入賞だとか、他のコンクールでもヘブラーやアントルモンと上位を分け合ったと書かれていて、CDの内容からさもありなんと思われる経歴でしたが、難病のためソリストとしては引退を余儀なくされ、後半生は後進の指導に当たられていたとのこと。
 こういう人を知り、演奏を聴くと、僕は自分の音楽の聴き方が非常に「舶来主義」だなあと実感します。もちろんそういう聴き方を「間違っていた」という気もないですが(なにしろ洋楽系日記だもんねw)、この田中希代子を始め、(実は最近よく聴いている)朝比奈、ヤマカズ、そして近衛秀麿山田耕筰(作曲家としても、指揮者としても)など、我が国における「洋楽の受容と発展」という視点で聴くことで、自分の知らなかった「歴史」を感じることが出来ます。
 僕はクラシックに関してはぼんやりと、小澤とか中村紘子などが本格的な草分けで、それ以前は「習得時代」だったくらいに思っていたんですが、全然違いました。「ヨーロッパ芸術」である故に存在する「地理的・文化的隔たり」に翻弄されながら(そして、時代的に20世紀前半の世界的緊張や戦争にも翻弄されながら)、それぞれの時代に才能や業績がありました。今や日本人(や中国・韓国などの非ヨーロッパ人)の一流演奏家は大勢いますが、その源流に、こうした人達がいたんだなあと思いながら聴くと、その素晴らしい演奏がよりいっそう胸に響きます。
 このCD 、jinkan_mizuhoさんのブログへのコメントで言及したのがきっかけで興味を持っていただき、ブログで取り上げてもらいました(こちらです)。評伝も読まれたとのことで、僕なんかよりずっと勤勉で感服しますが、こうして彼女の業績が広まってくれたらいいなあと思います。Jinkan_mizuhoさん、ありがとうございました。