ザ・フー来日ツアー見聞記

 というわけで、ザ・フーに明け暮れた日々が終わりました。本当に夢のような日々でした。正直身体は疲れましたし、家族の手前気まずかったですが(一応了承はもらっていたんですがね)、これはもうかけがえのないものですから、精一杯楽しむつもりで臨み、そして自分の予想以上の楽しみ・感動・感激をもらうことができました。
 もうほうぼうのブログやサイトで紹介されているので詳細を時系列で追うことはしませんが、演出はどの日も基本的に同じ、セットリストも同様でした。大阪では「Real Good Looking Boy」を、2回の武道館公演では「Won’t Get Fooled Again」と「My Generation」の順番が入れ替わり、「My Generation」のあとメドレーで「Naked Eye」を演奏してくれました。また、「My Generation」後半のアドリブ部分で「Cry If You Want」を歌う日が多かったです(僕の記憶ではさいたま公演のときはさらに「I’m Free」のサビが聞こえたんですが、記憶違いかも知れません)。
 演奏内容については、今さら僕がなにか書くこと自体おこがましい素晴らしさ。4年前の横浜は野外だったので感じにくかった音圧がリアルに感じられました。本当にものすごい圧力。そんな迫力なのにピートのギターはとてもニュアンスに富んだものでした。歪んだ大音量からナチュラルな弱小音まで自由自在。こまめにエフェクターやボリュームをいじる姿が目立ちましたが、すべてあの変化に富んだギターを成立させるためのものだったんですね。
 密かに心配していたロジャーも見事な貫禄でした。日によって歌い出しをとちったりちょっと高音がきつかったりもありましたが、そんな細かいことは気にならない歌声でしたね。「Love Reign O’er Me」サビの素晴らしさは4年間など足下にも及ばないものでした。
 ザック、ピノ、ラビット、サイモンもすっかりバンドとしてしっくりきていて、この編成でのアンサンブルはすでに完成の域に入っていた感じです。特にザック、キースばりの怪物的フィルから手堅いリズムキープ、「Behind The Blue Eyes」2コーラス目に入ってくる囁くようなシンバルワーク、すっかり大物ミュージシャンに成長していました。僕は17日の武道館では、ステージ真横最前列という至近距離で観ていましたが、そこから見えるザックは、お父さんの面影を感じさせる顔立ちと素晴らしいドラミングで惚れ惚れするようでした。
 以下、公演ごとの覚え書きです。
 11月14日横浜アリーナ
 この日の座席はセンター席(武道館でいうとアリーナ席)のほぼど真ん中。席は最高だったんですが、すぐ前の席の人の背が高く、せっかくのステージがあんまり見えませんでした(笑)。その分音はよく聞こえ、それはよかったです。登場してすぐピートが「Hello New York!」とオヤジギャグをかましていました(笑)。4年ぶりに、しかも初めての単独ツアーで再会できたフーの演奏は荒々しくも充実したものでした。そしてこの日の最後、ピートとロジャーがステージ上で抱き合いました。本当に、そんな光景を見られるなんて想像もしていませんでした。
 11月16日さいたまスーパーアリーナ
 初めて行く会場でしたが、行ってみたらなかなかいいところでした。近くにジョン・レノンミュージアムがあったんですが、この日は行きませんでした。
この日の席はステージを左手に見下ろす感じ(ピノ側)。けっこうステージに近かったし、傾斜のあるエリアだったのでステージが全景見えて嬉しかったです(笑)。ロジャーがよくこちら側に顔を向けてくれたので、手を振ったり声援を送ったりしました。
演奏はもちろんよかったです。僕は個人的にこの日の演奏は翌日の武道館に次いで充実していたと思っています。
さて、この日のピートについて「客席からビール缶を投げ込んだ人がいて、ステージからその人を指さして『お前、出てけ!』と何度も叫んだ。そのせいで機嫌が悪かった」という噂があります。僕が実際に憶えているのは、客席の方を指さしていたことと、なにやら叫んでいたことだけです。そして僕が憶えている限り、ピートの機嫌はそれほど悪くはなかったと思います。ただラストのハグはなかったですが。「My Generation」後半で「Stupid War!」と叫んだのはこの日が最初だと記憶しています(違ってたらごめんなさい)。
 11月17日日本武道館
 いよいよ「聖地」でのコンサートです。会場にコンサートを告知する大きな看板がかかっていましたが、そこに「Live At Budokan」と表記されていたのが印象的でした。
この日は横浜に続いてlazyさんとの鑑賞。当初2階席だったのが「セットの関係で観にくいので」という理由で振り替えしてもらえ、前述のとおりステージ真横に行けました。これが最高の席で、ステージに大変近く(しかもピート側)、ラビットがピアノを弾く指も、ザックのドラミング姿もすべてがよく見えました。また、ステージ下のスペースも全部見えたので、スペアのギターがずらりと並んでいるところや、持ち替えたギターはすぐにギターテックのスタッフが点検とチューニングをするという「ギター・ピットイン」も観られました。本編終了後、そしてアンコール終了後、ステージを下りるときも僕たちの席の方に来たのですが、階段を降りるとき、ピートはスタスタと降りるのにロジャーは少し覚束なげで、却ってステージでの全力投球ぶりが際だって感じられました。
ところでこの日は初の武道館公演、しかも追加がなければ最終公演の日程だったので、熱心なファンが大挙やってきたらしく、始まる前から大騒ぎ。開演直前に会場に流れたボウイの「jean Genie」で手拍子が起こるなど、ムードも最高でした。「Baba O’riley」の中盤の大合唱はきっと語りぐさになるでしょう。「愛の支配」のロジャーの「トチリ」もまあ、ご愛敬ということで(笑)。
 11月19日日本武道館
 いよいよこのツアー最終日。この日も素晴らしかったです。この日は1回南スタンド席。ステージをほぼ全景正面に観られるところで、見応え十分でした。この日はピートとロジャーがそれぞれ長めのMCをしていて、こんないい国にこれまで来られなくて残念だったよ、などと話していました。それにしてもロジャーのMCは聞き取りにくい(笑)。この日の「Cry If You Want」部分はピートとロジャーが2人でハモったりしながら、かなり長く演奏していました。1曲でカウントしてもいいんでないかい(笑)?
 17日に2階席にいた「上半身ハダカ男」のことは書きましたが、この日はアリーナ席ほぼ中央に、どうも酔っぱらった外国人の男性がいて、大はしゃぎで踊りまくって、時々シャツを脱いでハダカになって騒いでいました。当然スタッフが止めに入りますが、大はしゃぎは止まず、とうとう最後には、スタッフが1人「専任」でついてマークしていました(笑)。
 
 今回の選曲では、僕が好きな「The Seeker」「Reley」「Sister Disco」などが入っていて嬉しかったですが、意外だったのは「Eminence Front」、はっきりいって最高でした。こんなに攻撃的な曲だったんですね。見直しました。
 コンサートは必ずピートとロジャーだけで「Tea And Theatre」で幕を閉じました。こういうふうに2人だけで締めるというのは、珍しいのではないかな?苦い歌詞と切ないメロディーを持つこの曲を、スタジオ録音ではあったベース、ドラムを抜いたギター伴奏のみで歌ったというところに、現在のピートとロジャーの決意を感じます。
 こうして書きながらあれこれ思い出すと、この数日間がいかに自分にとって幸福だったかを実感します。そういう思いの方は、今日本にたくさんいるんだと思います。流行やタイアップではなく、少しずつその音楽の良さが浸透して、ついに今回の来日に繋がったわけで、その意味でも、今回のツアーの大成功は、バンドとファン双方の力で成し得たものだと言えると思います。考えてみたら、それも実にフーらしいことだと思えます。
 ピート、ロジャー、そしてザック、ピノ、ラビット、サイモン、本当にありがとう。一生忘れない思い出ができました。またいつか会える日を待ちながら、僕たちはそれぞれの場所で生きていきます。本当に、最高の日々でしたよ!