映画「Amazing Journey」を観てきました

 ザ・フーの映画「Amazing Journey」を観てきました。映画自体の評価が高いことはもうあちこちで言及されていましたが、単館とはいえ映画館で上映されたというところに現在のフーに吹いている風が感じられますね。素直に嬉しいです。夢のようだった来日から早1ヶ月。いまだ感動醒めない僕にとっては、「総まとめ」的な気持ちでの鑑賞でした。
 内容はというと、グループのバイオを主題としたドキュメンタリーでした。ザ・フーでドキュメンタリーというと、ファンはすぐに思い出す「The Kids Are Alright」があります。傑作と誉れ高いあの映画ですが、ビックリ、「Amazing Journey」を観た後では、「The Kids〜」は単なる「ライヴ映像とインタビューの集まり」と思えてしまう、それほどの作品でした。
 映画はメンバーの誕生から始まるというもので、基本的には時系列に沿って進みますが、構成が巧みでかなりの手間がかけられているものでした。場面展開や流れもスピーディかつ最新技術を駆使した(と思われる)見事なもので、劇場公開を前提とした品質をちゃんと実現させていました。「The Kids〜」ではあまり触れられなかった個々のアルバムも発表順に紹介されており、単純なバイオとしても「The Kids〜」よりも親切なものでした。
 売りのひとつである珍しい演奏シーンはたくさんありましたが、実は殆どが完奏しません。そういう部分(のみ)を期待してしまうとちょっとガッカリするかも知れませんが、この映画の肝はそこではなかったです。ピートとロジャーを中心に、一部キースやジョンの生前のインタビュー、そしてメンバーの家族や関係者が直接語る言葉と表情こそが、この映画の中心です。
 そこで語られるものは、このバンドが何を背負い、何に挑み、勝ち、負け、前に進んできたかです。ロジャーが語る「何十億人もいるこの星で、この4人が出会ったという奇蹟」(という言葉)から始まり、デビュー、成功、そしてキースやジョンの死を受け入れ、歩みを勧めようとするバンドの姿は、単に「評価の高いロックバンド」だから観ていられるというものではなく、本当に感動的なものでした。
 印象的だったのは、キースの死についてピートもロジャーも「予期できたのにちゃんと手をさしのべられなかった」という思いを抱いていたというところ、ジョンの死について「死にたくなるほど悲しかった」(ピート)というところで、メンバー間の不仲や軋轢ばかり語られていたこのバンドの、本当の根っこの部分を知ることが出来ました。ジョンの死をきっかけに、ピートとロジャーが改めてお互いの存在に率直に向かい合い、信頼と友情を取り戻していくところは、2人にとっても僕たちファンにとっても重みを持ったものでした。いくつかのメディアで紹介されているように、映画の最後ではピートとロジャーがお互いに相手との友情や信頼の言葉を述べていますが、それは「映画のラストに使うちょっとイイ言葉」などではなく、長い旅路を経たからこそ言えるものであり、胸に迫るものでした。ここではネタバレ予防のために詳細は書きませんが、まるでシナリオがあるのでは、と思うほどドラマチックな歴史と、そこでメンバー全員が(反目や対立という形をとったときもありますが)お互いのことを考えている事実は、第一級の人間ドラマといえると思います。
 映画にはエッジ、スティング、エディ・ヴェーダー(パール・ジャム)、ノエル(オアシスの)が登場してコメントをしています。もちろん賞賛の言葉ですが、面白かったのは、あのビッグマウスのノエルや(ふだんなら)大スターのオーラ満点のスティングが、襟を正したように語っているところ。そんなところにもフーの大きさを感じてしまいました(未確認情報ですが、先月のフーの武道館公演の会場にスティングがいたそうです。ステージ袖から観ていたとか。そういえばスティングは「さらば青春の光」に出ていて、ステージ後方のスクリーンにも登場していましたね)。
 映画のラスト近くに先月のコンサートと同じく「Tea And Theatre」が登場します。お恥ずかしい話しですが、僕は横浜公演を観た後あわててこの曲の歌詞を読み直し、そこに込められた思いに圧倒されました。彼らにとって、「人間と人間が関わり合う」ということが何よりも重要なんだということを思い知ります。それはこの映画全編に感じられることです。それこそが僕たちファンがフーを愛する大きな理由なんだと思います。メンバー紹介をコラージュしたラストシーンで最後にピートが叫ぶ一言(未見の方のために伏せておきます)は、そのことを雄弁に語っています。
 この映画は、単にロックバンドのバイオ作品を越えた、第一級の人間ドキュメンタリーであり、そして第一級の「友情と和解の物語」でもありました。この映画に「必見」以外の言葉は当てはめられません。
 追記:映画にはケニー・ジョーンズも登場し、コメントをしています。「インタビューでもフー時代のことは一切答えない」と言われていた彼が穏やかな表情で語っている場面は、心温まるものでした。ちょこっとネタバレですが、エンドロールの「キャスト」のところは、「The Who」として4人とケニーの名前がクレジットされていました。常々ケニーの扱いに不満を持っていた僕にとっては、ここにも感動していまいました。