オバマ大統領就任記念コンサートに徒然思う

 夕食の準備をしながら眺めていただけなので全部把握はしてないんですが(録画はしたのであとでちゃんと確認するつもり)オバマ大統領就任記念コンサートをテレビで観ました。テレビのワイドショーで豪華な出演陣が取り上げられていましたが、僕は出演者にもですが、会場と観客数に圧倒されてしまいました。あの大観衆は、つまり「豪華な顔ぶれのコンサート」を観に来たのではなく、「オバマ大統領就任という歴史的瞬間」に立ち会いに来たんだということなんですね。
 演奏自体はなんとなく吹き替えっぽく(さすがに歌やスピーチ、アコースティック・ギターは生のようでしたが)、アーチストが1曲ずつ交代してステージに上がる構成も落ち着かないし単調なものでしたが、僕のような人間には馴染みにある人ばかりだったので楽しめました。
 事実上のオープニングがスプリングスティーンだったのには驚き&嬉しかったです。ここ数年充実した活躍のボスですが、今回も良かったです。ベティ・ラヴェットとジョン・ボン・ジョヴィが登場してサム・クックの「A Change Is Gonna Come」を歌ったのも素晴らしかったです。今回の選挙戦でオバマ氏が「Change」をキャッチフレーズにしていたとき、その言葉を聞くたびに思い出していたのがこの曲でしたから、ここで聴けたのはよかったです。ジョン・メレンキャンプはなんだかすごく恰幅がよくなっていてビックリ。
 ガース・ブルックスが出てきて「American Pie」を歌い出したのにもビックリ。ちょっとテーマが違うんじゃ?でもそのあとメドレーで「Shout」を歌って盛り上がっていたので、堅いこと言いっこなしなのかしら?いや、歌は見事でしたが。アッシャー、シャキーラとの競演で歌われたスティービー・ワンダーの「Higher Ground」はどちらかというと穏やかに盛り上がる感じの曲調が多かった今回のコンサートでは数少ないリズムが強烈なものでよかったです(演奏が生かどうかは不明ですが)。
 U2の「Pride」も生演奏か怪しかったですが、ボノの歌声は本物でした。「46年前にこの場所でキング牧師が語った夢が、今日実現するんだ!」という冒頭のMCは、あの「Rattle And Hum」の「Helter Skelter」を思い出させるものでした。間奏でボノが叫ぶ「アメリカンドリーム、それはアイルランドの夢でもあり(中略)イスラエルの、そしてパレスチナの夢でもあるんだ!」という言葉に、ボノがどんなときも「言いにくいことを口にできる勇気」を持ち続けていることに気づき、感動します。
 コンサートの終盤、再びボスが登場し、なんとピート・シーガーを伴ってウディ・ガスリーの「This Land Is My Land」を歌いました。僕のようなバックグラウンドを持つ音楽ファンにとっては、ここが一番感動的でした。今回のコンサートは演奏とスピーチが交互に登場していましたが、スピーチで繰り返し引用されたのはリンカーンケネディキング牧師、そして奴隷解放運動、公民権運動でした。そうした文脈で聴く「This Land Is My Land」は、長く険しかった旅のひとつの到達点を意味しているようでした。
 この曲を聴き、画面に映るシーガーを観ながらふと「彼は間に合ったんだ」という言葉が浮かびました。そう、ピート・シーガーは間に合った。その目で「アフリカ系の合衆国大統領が就任する瞬間」を観ることが出来ました。でも出来なかった人もたくさんいた。「必ずChangeの瞬間がやってくる」と歌ったサム・クックもそうだったし、公民権運動に携わった人達も、もっと前の時代に生まれた人も。なんだかシーガーは、その橋渡しをしているようにも感じます。そしてこの瞬間を、運動に携わった人達、アフリカ系国民やリベラル系の人達のイベントではなく「この国の勝利」と言い換えてしまうところに、アメリカという国の特殊性と、いい意味悪い意味両方の「おおらかさ」を感じでしまいました。
 もちろんこれは本当のゴールではないでしょう。新大統領にとってはこれからが本当の闘いでしょうし、政治家はあくまで仕事で評価されるものですから、楽な試合ではないこともわかります。僕も一応大人ですから、それくらいはわかります。それでもこれは歴史に残る瞬間だとも思います。僕のような音楽ファンにとって、1960年代以後のポピュラーミュージックが大きなテーマとして扱い実際にアーチスト自身が戦い続けたものに、一つの大きな達成があったんだと思うと、感無量です。今回のコンサート自体は、「音楽の歴史に残る」というようなものではなかったですが、それでも僕にとっては嬉しいイベントでした。