2月21日 クラプトンとベックの競演

 そうじゃないかな?と思ってはいたんですが、やっぱり「最初から最後まで2人出ずっぱり」ではなく、それぞれの出番があり、最後に揃って演奏するという構成でした。そりゃそうですよね、競演だけでも大変なことなので、この形で十分です。
 第1部はジェフ・ベック。僕が以前観たときはテクノのフォーマットで非常に攻撃的なギターを聴かせてくれたジェフですが、今回はぐっと落ち着いた感じでした。音楽や演奏は緩んだものではなかったですが、ドラム、ベース、キーボードをバックにした演奏はとてもナチュラルな感触でした。音も良かったし。ステージの左右にスクリーンがあったんですが、ジェフが映ったときは顔ではなくギター(と指)がクローズアップされていたのがおかしかったです(勉強になりましたよw)。
 上にナチュラルと書きましたが、演奏自体は緩さのまったくないものでした。多彩なトーンで表情豊かな音・フレーズでした。あの独特のオブリガードも健在だったし。「A Day In The Life」もやってくれましたが、ピッキングひとつで微妙なニュアンスを弾き分ける様子は、本当に感動的でした。バックのメンツもいい感じ。話題になっているベーシストのタル・ウィルケンフェルド嬢も上手でした。ベースソロもよかったし(ジェフが4弦でリフを弾きながらタルが残り3本でメロディを弾くという「1本ベース連弾」での「Freeway Jam」!)、ぐいぐい低音でリズムをキープする様もよかったです。ジェフの機嫌も良く、バンドとも仲が良さそうで、いい音・いい演奏とも相まって、観ていてとても幸福な気持ちになってしまいました。
 そして第2部のクラプトン。セットチェンジのあと、すたすたステージに出てきて一言「コンバンハー」。そしておもむろに演奏開始。この人の場合、もう日本は慣れっこになっていて、驚きなどはなく安定していました。ただ特筆すべきは、昨日のクラプトンは「ちゃんと」していました。何回もこの人のコンサートを観た人はわかってくださると思いますが、この人、けっこうステージでリラックスしすぎて「流している感じ」がすることがありますよね。出来が悪いということはないんですが、なんとなく「本気じゃない」感じがするときが。それが今回はあまり感じられず、歌もギターも力がこもっていました。これはやっぱり、「ジェフがいる、この演奏を聴いている」という意識がいい方向に作用したんだと思います。
 そしていよいよ2人競演の第3部。やっぱりこの2人が同じステージにいるというのはすごい雰囲気でしたね。内容は(これまた予想どおり)ブルース系の演奏を土台にしてのソロ回し。このときは2人ともさすが名人達人の競演でした。土台になる演奏が比較的かっちりしていたので、予想外の方向へ飛んでいくようなスリルはなかったですが、2人ともそれぞれも個性全開のいい演奏でした。いつもはのんびりしたクラプトンも、観客に背を向けるようにしてギターに集中していて、実にソリッドで攻撃的なソロを弾いていました。対してジェフはあの個性はそのままでしたが、フォーマットがフォーマットだったからか、むしろオーソドックスなブルースのフレーズを連発していて、予想外の演奏を聴くことができました。この人、デビューした頃から個性の強い人でしたから、こんなにごく普通のブルース演奏をするのは珍しいのではないかしら?2人ともさすがと思わせてくれるような演奏でした。
 そして本当のラスト、なんと曲はスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンの「I Want To Take You Higher」。腰の強いバックに乗せてのソロの応酬。これぞまさにインタープレイといっていい力のこもった演奏でした。2人が競演したということが伝説になるとしたら、その白眉は間違いなくこの「Higher」でしょう。欲を言えばもう少し長めに演奏してほしかったな(わりとあっさり終わってしまったような印象だったので。実際はそれなりの長さだったかもしれません)。
 この2人がデビューしてすでに50年近く。ロックは世界中に流布し、様々に分岐し細分化し、かつてのような無邪気で単純なものではなくなりました。でもやっぱり、腕1本、ギター1本で勝負するという「演奏家魂」は健在だし、感動的なんだということを、今回のコンサートでは改めて思い知りました。よかったです。それにしてもジェフはにこやかだし、エリックは(珍しく)鋭かったし、こういう競演も(単純な顔合わせということではなく)たまには必要なのかも知れませんね。