神が微笑む「正直さ」

 前回の日記ではザ・フーのDVDのことを書きましたが、今回はキッスのDVD「KISSOLOGY Vol.1」のことを書こうと思います。なんだかものすごいボリュームでリリースされている「KISSOLOGY」シリーズ、12枚組とか18枚組限定盤とか(もう完売しているらしいです)大変なことになっていますが、僕はバラ売りの「Vol.1」を買いました。バンドの最も初期の映像が観られるということでも興味がありますが、僕の本当の目的は、あの1977年4月2日の日本武道館公演。これはもう有名な話しですが、ここに収録されている武道館の映像は、当時NHKが収録・放送したあの「ヤング・ミュージック・ショー」のものです。長いこと幻の映像だったものですが、5年前に再放送が実現し、今回は鮮明な映像でDVD化されました。
 僕はこのころすでにロックを聴き始めていたので、その番組もリアルタイムで観ています。とにかく総てが新鮮で衝撃的でした。演出や映像というよりも、楽器を演奏している「動く映像」自体がなかなか観られない時代でしたから(笑)、ものすごく勉強に(?)なりました。当時の僕は中学2年生、クラスの男子の大半がロックを聴いていたというすごいクラスでしたが、当然この番組はみんな観ていて、放送後に盛り上がって話しをしたのを憶えています。
 5年前にNHKで再放送されたアーカイブ番組では、当時の模様なども説明されていました。バンド側の要請で当時のこうした番組収録の倍くらい多いカメラが使用され、メンバー全員が均等にクローズアップされるよう編集された・録音はこれまた当時のテレビ収録では例がなかったマルチトラックテープだった・ミキシングはNHKではなくバンドのエンジニアが行い、NHKのスタッフはその仕事レベルの高さに驚いた、など、興味深い話しがたくさん出ていました。時はまだビートルズ解散から数年というところでロックに対する社会的認知も低く、こうした音楽を放送するとたくさんの抗議の手紙が来たという話しも紹介されていました。なんだか大昔の話しのようですが、実際に僕はその当時ローティーンだったわけで、ある程度はそういう空気を憶えています。ロックは歓迎されたものではなかった。でもあのときこの番組を観た子どもたちは熱狂し、僕のまわりでもこの番組をきっかけにしてロックを聴き出したりギターを始める友人はたくさんいました。
 今回のDVDで、ついに「いつでも観られる」ようになったこの「伝説のコンサート」ですが、今観ても楽しめるカット割りで、質が高い内容です。ケレン味というよりマンガ的な演出も明るく楽しめるもの、曲もとてもキャッチー、そしてなにより、キッスの演奏が丁寧でレベルが高いです(一部、整い過ぎていて「テープ?」と思うところもありましたが、1曲の全体でそういうことはないので、やっぱりちゃんと演奏していると思います)。ものすごいテクニシャンではないですが、キャッチーな曲の魅力を100%出し切ったようなプレイで、当時観ていた子どもたちが「オレもバンドやってみようかな」と思わせるに十分なものです。当時も今も思う、「曲調のバリエーションが多くない」「テクニック的にそれほどでもない」というところが、ふつうならデメリットになるのにキッスの場合はそのまま30年経っても鑑賞に耐えるというのは、僕にとっては本当に「ロックの奇蹟」です。説明はできないんですが、やっぱりキッスは、ロックのある部分を「正直に」体現しているからなのかも知れません。
 そういえば、もう10年以上前でしたか、メイクアップが復活してときのインタビューでジーンは「ロックにおけるインパクトの尺度はセールスだ!」「グラミーの会場を埋めている『評価の高い』バンド連中がどれくらい『自分たちのイメージ』に気を使って服装や発言を考えているか知ってるか?」など、実に彼らしい発言を繰り返していましたが(記憶が頼りですが、発言の趣旨は取り違えていないと思います)、そうしたロック的価値観(の偽善的側面)をあざ笑うような正直さゆえに、ロックの神様は彼らに微笑んだのかも知れませんね。
 僕にとってキッスは、オリジナルアルバムを全部持っているクイーンやエアロに比べると思い入れはもうひとつ落ちるんですが、このDVDを観ていると本当に楽しくて、また彼らの音楽を聴きたくなってきます。
そういえば偶然ですが、この武道館公演、収録されたのはほぼ32年前だったんですね(正確には昨日がぴったり32年までになります)。こんなに長い期間彼らが続くなんて、本当にすごいと思います。やっぱり彼らも「ロックの奇蹟」なんでしょうね。

KISSOLOGY Vol.1 [DVD]

KISSOLOGY Vol.1 [DVD]