「Abbey Road」という奇蹟

 ある新聞のサイトを閲覧していたら、「アビイ・ロード40周年」という文字が。クリックしてみたら、あのジャケット写真が撮影されてから40年にあたる8月8日、現地にたくさんのファンがやってきて、記念撮影をしたというニュースでした。
 そうか、もうその日が来たか。ビートルズは60年代に活動していたバンドですから、もうほとんどの出来事が40年以上前に起こったことになるんですが、ついに事実上のラストアルバムの写真撮影まで来たんですね。ということは、今月の末にはレコーディング終了からも40年になるわけで、感慨深いです。
 あのアルバムの評価は、もう「言うまでもない」というレベルで確立されていますよね。僕は中学2年生のとき初めて聴きましたが、そのときはまだビートルズは解散してたった7年しか経っていませんでした(そのころはものすごく昔だと思っていましたが)。で、そのときすでに「傑作」という評価は確かなものになっていたと記憶しています。ビートルズの偉大なところは、そうした高い評価が(相対的な上下変化はあれど)年月を経ても変わらない(むしろ上がっていくか)ところです。よく思い出してみると、70年代が一番(本格的ロックファンからの評価は)低かったかも知れません。これは松村雄策さんがよく書いてらっしゃったことですが、僕の記憶でも、あのころ(70年代後半)ビートルズは絶対的に高い評価が確定した存在でもなかったような気がします。いつごろからかなあ、今のような評価になったのは?リンゴやポール、そしてジョージは90年代あたりからコンサートでビートルズ時代の曲を取り上げるようになってきましたから、その少し前くらいからでしょうか?
 ちょっと横道に逸れてしまいました。僕にとってこのアルバムは、30年以上聴き続け、そしてまったく飽きないアルバムのひとつです。このアルバムを聴いた段階で僕は、「Oldies」と「Let It Be」しか聴いておらず、作り込んだ後期の作品に接したことはなかったんですが、不思議なことにまったく違和感もなく戸惑うこともなく、すぅっと入り込めました。「A面はジョンが、B面はポールが中心になって」とか「ジョージの作品がなければきつい出来だったのは」などという声もありますが(どれも一理ありますが)、僕はまったくなにも疑問に持たず、全体を愛していました。「Come Together」の歌詞に「対訳不能」と書いてあったのにも衝撃を受けましたし、初めて「Something」を聴いたときは、本当に涙が出てきました。「Because」の不思議なハーモニーと不思議な音にも、少しビクビクしながら魅入られましたし、あのメドレーにはひたすら驚きつつ感動していました。そしてこのアルバムは「LPにはA面とB面があり、それぞれがひとつの作品なのだ」ということを教えてくれた初めてのレコードでした。「I Want You」が突然終わったときの、あの得も言われぬ静寂と余韻。あれから30余年、たくさんのアルバムを、それこそ毎日聴き続けてきましたが、これほど見事に両面の「間(あいだ)」を体験させてくれたものはありません。
 そして何よりも恐ろしいのは、このアルバムがビートルズにとって、実質上のラストアルバムだったということ。これ、あまりに有名なんで誰も驚かなくなっていますが、すごいことですよね。僕はものすごくすごいと思っています。この当時のビートルズは、さまざまな対立や軋轢があったと言われていますが、なのに作品はこれほどのものになっているという信じがたい事実。一体なぜこんなことができたんでしょう?文字通り「金字塔」といっていい作品を、60年代という時代の最後に創り上げ、その時代と共に去っていくかのように袂を分かつなんて。こういうふうに考えるたびに思います。ビートルズというのは本当に「20世紀の奇蹟」だったんだなあと。
 もちろん今これを書きながら、「Abbey Road」を聴いています。こうして聴くのも一体何回目なんでしょう?そしてこの先一体何回聴くのでしょう?一体何回僕はこのアルバムに感動するのでしょう?もしかしたら僕たちファンも、ビートルズという奇蹟の一部なのかも知れません。

アビイ・ロード

アビイ・ロード

追記:そういえば、あのリマスターのリリースまで、あと1ヶ月だ。