ウッドストック40年でジェファーソンに刮目

 何日か前の新聞に「ウッドストックから40年」という記事が載っていました。今年は本当に「40周年」が多いですね。つくづく1969年はエポックな年だったんだと実感します。今売っている「レコード・コレクターズ」でもウッドストックの特集を組んでいます。巻頭の大鷹俊一氏の文章は、このフェスの持つ独特の地位について、わりと好意的でわかりやすいものになっています。まあ、今回は関連商品がたくさん出ましたからね(苦笑)。
 この雑誌に限らず、日本のロック・ジャーナリズムにおけるウッドストックの評価というのは、音楽ばかり持ち上げて、その背景にあるものについては一種の「ムード断罪」で「批評した気になっていた」ものばかりでした。これにはあの渋谷陽一氏もずっと語っているところでもありますが、僕はこれは「日本におけるウッドストック受容の言葉」ではあっても、決してあのフェス自体を語ったものではないと思っています。政治的・思想的背景を考えたとき、あの時点ではまだ国民の半数以上がベトナム戦争について賛意を表明していた時期に「愛と平和」と反戦をある種のスローガンとして掲げること、そして主催者(忘れがちですがあのコンサートはれっきとした商業イベントです)の予想を大きく超えて規模が膨らみながら、事実上平和に終了させることができたことなどは、もっともっと評価されなければならないし、そここそがあのフェスが「伝説」「歴史」になった理由だと思います。僕はまだ今回出た新編集映像は入手していなくて、以前出たDVDしか観たことがないですが、あの中で周辺住民がうようよやって来るヒッピー(全員じゃないんだろうけどね、ビリー・ジョエルもいたらしいし)に戸惑いながらも受け入れようと努力している姿は、このフェスが持っている本当の底力、何があの伝説を創り上げ、支えているかの答えだと思います。
 徴兵忌避は明らかな法律違反です。前年にはマーティン・ルーサー・キング牧師暗殺やそれをきっかけとした暴動も頻発していました。ニクソン大統領(当時)の「サイレント・マジョリティ」発言とそれによる国論の分裂(当然武力衝突を伴いました)はウッドストックと同年の11月です(つまり、この発言も今年で40周年ですね)。要するに物情騒然とした時期に、言葉は悪いですが「楽しい」コンサートが、大観衆を集めて実現したわけで、それは単なる偶然や「青臭い理想主義」というぶった切りでは説明も理解もできないと思います。
 「今からこのコンサートはフリー・コンサートにします。でもそれは『何をやっても自由』という意味ではありません。何千人もの人達が会場にやって来ていて大変なことになっています。みんな助け合ってください。みんな、自分の隣にいるのは兄弟姉妹だと思って行動してください」これは、サントラ盤にも収録されている「フリー・コンサート宣言」MCです(僕の聞き取りなので間違いがあるかも知れません念のため)。美しい言葉だと思います。この言葉を事実上「実現させた」力は、決して軽んじてはいけないでしょう。
 なんだか前振りで熱く語ってしまいました。今回ものすごくたくさん出ているウッドストック関連商品(タンバリン付きブルー・レイなんてものまであります)のうち、取りあえず僕はジェファーソン・エアプレインの「The Woodstock Experience」を買いました。大好きなアーチストがたくさん出ているウッドストックですが、ジェファーソンはあんまり思い入れがなく、そんなに聴きこんではいませんでした。で、これを機会にちゃんと聴いてみようと思って今回買ったのです。このアルバムは2枚組で1枚はオリジナルアルバムの「Volunteers」、もう1枚はウッドストックのライヴテイク。1位枚目の後半からライヴが始まりますので、事実上2枚組分の実況録音が聴けます。
 これがものすごい。今まで聴けた数曲でもいい演奏だということがわかりましたが、まとめて聴いたら大変なものでした。ノリもムードもいいし、バンドの演奏もレベルが高いです。キーボードはあの「伝説の」ニッキー・ホプキンス。ジェリー・ガルシアやスティーヴン・スティルスも演奏に加わっていて、フェスらしい顔合わせも実現しています。ジェファーソンの出番は2日目8月16日のトリ。の予定でしたが、実際の出演はもう夜が明けてからだったそうです。そんなコンディションでのこの演奏、大したものです。実はこの日の進行はトリがジェファーソン、その前がザ・フー、その前がスライ・アンド・ファミリーストーンで、それぞれ演奏が長引いたためにジェファーソンのステージが朝になってしまったらしんですが(よく考えたらものすごいメンツですね)、確かにここでもジェファーソンは、フーやスライを徹夜で聴いた観客も満足させるような熱い演奏を聴かせてくれます。あんまり思い入れがない僕も感動しました。
 ジェファーソンはこの当時、歌詞もファッションも非常に反体制的な色彩が強く、その反動からか後年の評価はもうひとつですが、フェス全体のことを考えるとき、彼らもまた紛れもなくウッドストックの「顔」なんだと実感します。40周年を機会として、音楽と理想の関係を真面目に考えるきっかけになってくれました。
 追記:この「Woodstock Experience」シリーズ、他にもジョニー・ウィンターサンタナ、ジャニス、スライが出ています。これ、全部聴きたくなっちゃいますね。特にスライ。でもカップリングの「Stand!」もう持ってるんですよね。このシリーズ、全部2枚組で1枚は69年発売のオリジナルアルバムなんです。そっちはもう持っているものばっかりなんで悩ましいです(ジェファーソンは持っていなかったので最初に買ったんです)。ライヴだけ、こっそり出してくれないかなあ(笑)?
 もうひとつ追記:最初に出たサントラ盤のジャケットに写っていたヒッピーのカップル、その後ご結婚して、今もお2人仲良くご健在だとのことです。こういうことを聞けるのって、やっぱり嬉しいですね。そういえばこのフェスでは出産もあったはず。つくづく「伝説」のコンサートだと実感します。

Music From Original Soundtrack & More: Woodstock

Music From Original Soundtrack & More: Woodstock

Jefferson Airplane: The Woodstock Experience

Jefferson Airplane: The Woodstock Experience