新譜評 チープ・トリック「SGT.PEPPER LIVE」

 今日は最近入手したビートルズ関連の音源の話題で。とはいってもビートルズそのものではありません。
 タイトルは「SGT.PEPPER LIVE」。アーチストはあのチープ・トリック。今から2年前、ロスアンゼルスで開催された「サージェント・ペパー40周年記念イベント」のライヴで、ロスアンゼルスフィルハーモニー管弦楽団と競演とライナーには書いてあるので、てっきりそういうものかと思ってよくよくクレジットを確認したら、競演しているのは「ニューヨーク・フィル」と書いてありました。オフィシャルサイトで確認したら「2007年12月12日、前立腺ガン撲滅のチャリティのためにニューヨークで行った」と書いてありました。???。前立腺ガンのことはCDのライナーにも明記されていましたから、そういう趣旨のコンサートであったことは間違いないようです(輸入盤の英文ライナーを読んでいるので読み間違いがあるかも知れません念のため)。
 で、内容はというと、ビートルズのオリジナルアルバムと曲順もそのまま、アルバム全曲を演奏するという、実に直球な内容でした(アンコールなのか、「A Day In The life」のあとに「Medley Song」と題してあの「アビイ・ロード・メドレー」も収録されていました)。
 これがまた、実にいい内容でした。特にアレンジもせず、オリジナルに忠実に演奏しているんですが、とても気持ちよく聴けます。オーケストラやストリングスが必要な曲ではニューヨーク・フィルが力を貸し、「Within You Without You」ではインド人ミュージシャンまで参加するという力の入れ方。もちろん主役のチープ・トリックのメンバーも目一杯の演奏です。ジョーン・オズボーンをはじめ、何人かのゲストボーカルも参加していますが、基本的にはロビンの声が土台を作り出している感じです。そして、力強いリズムとギター。リックのギターは(ライヴの性質上)いつもの「ハズシやハシリも芸のうち」というものではなくしっかり演奏していますが、ダイナミックな魅力はそのまま。バーニーとトムも重心の低い良い演奏で、変な表現ですが「実はオリジナル『Sgt.Pepper』は優れたロックアルバム(演奏のダイナミックさという意味で)だった」ということが理解できます。 最初の方に書きましたが、演奏は基本的にビートルズのものに準拠しています。ビートルズのやったとおりに演奏することが、そのままダイナミックなロックとして鳴っているということになり、これはチープ・トリックの演奏と「ビートルズ理解」レベルがとても高いことと同時に、ビートルズの演奏もロック的に非常に素晴らしいということを意味しています。実際、このアルバムのあと聴いたオリジナル「Sgt.Pepper」は、それまでよりもずっとハードに聞こえました、というか、そういう部分がよくわかるようになりました(特にリンゴのドラムとジョージのギター)。
 それから、これまた変なことを書くようですが、このアルバムを聴いていると、改めて「Sgt.Pepper」収録曲の魅力に気づきます。熱心なファンほど辛口の感想が多い「Sgt.Pepper」ですが、こうやってワンクッション(?)おいて聴いてみると、どの曲も豊かなメロディとイマジネーション豊かなアレンジで、まったく悪くありません。いや、やっぱりどんなアーチストと比べても頭ひとつ抜けているでしょう。ビートルズファンの幸福というかなんというか、ある意味でこれ以上のアルバムもあるために(「Revolver」とか「Abbey Road」とか、最近ではホワイト・アルバムの評価も高いですよね。初期だと「A Hard Day’s Night」など)なかなか言及されませんが、やっぱり「ロックの最高傑作」(という外部レッテル)はただではついていないですね。僕は本当にそう思います。
 それにしてもチープ・トリック、昨年の「武道館30周年」以来気になって、ちょこちょこ聴き直していて、未入手だった80年代中期以後のものも集めていたところなんですが、やっぱりすごいバンドでした。今年出た新譜も好評らしいし(すみません、まだ聴いてないんです)、このライヴ盤もいい出来だし、本当に侮れません。この音源、DVDも出るらしいし、コンサートも再演されるらしいので(アメリカでですが)、そのままぜひ日本でもやってほしいですね。DVDも観たいですが、これこそ生で観たいです。日本通のリックさん、ぜひご検討ください。僕は絶対観に行きますよ!

Sgt Pepper Live

Sgt Pepper Live

 追記:このアルバムには「Co-Producer」として、あのジェフ・エメリックがクレジットされていました。ライナーには「ビートルズのオリジナルアルバムのエンジニアも務め、また、僕たちのアルバム『All Shook Up』でジョージ・マーティンとともに貢献してくれたジェフとまた一緒に仕事ができて光栄です」と書かれていました。こういう言葉に接することが出来て、ロックファンとしてとても嬉しいです。