こんなところにビートルズが!?

 年が明けても、森山直明の「ザ・ビートルズ・リマスターCDガイド」(以下「ガイド」)折に触れて読んでいます、というか年末インフルエンザで寝込んでいるときも枕元に置いていました(笑)。いろいろな情報がちりばめられているし、なによりも文章がいい。ちゃんと「読者に面白く読んでもらおう」という意識が感じられるもので、繰り返し読めます(マニア向けの書籍はそのへんが甘いものがけっこう多いのです)。なによりコンパクトなサイズがいいですね。「ビートルズ全曲バイブル」は仰向けに寝転がって読めませんからね(苦笑)。
 ところでこの本の序文「聴き比べることの大いなる喜び」では、今回のリマスターCDの聴き比べとその執筆作業が(発売のスケジュールとの兼ね合いで)時間的・分量的に大変だったと書かれていて、「ソロ活動での再演やソフトの紹介を盛り込みながら書き始めたところ、途中で完全にスペースが足りないことに気づき、断念した」と述べておられます。それにしたって大いに評価すべき成果だとは考えますが、ご本人にとっては「もっとこうしたかった」という気持ちになるんだろうなあと思います。で、ふと「もしかして著者は、泣く泣く落としたんではないか?」というエピソードに気づいたので、今日はそれを書くとともに、同じような特徴をもつ曲についてもご紹介したいと思います。題して「ひょっこり出てくるビートルズ系のフレーズ」。
 まずはチープ・トリック。まあこのバンドはビートルズのカヴァーもあり、「Sgt.Pepper」まるごとライヴで再現するほどのビートルズフリークですが、あの名盤「武道館」で一瞬だけビートルズナンバーが出てきます。曲はジョンもポールもカヴァーした「Ain’t That A Shame」。最初のギターソロのパート(プレイヤーのカウントでは大体3分過ぎくらい)でチラッと「Please Please Me」が聞こえます。もちろん弾いているのはリック・ニールセン。アドリヴで入れたんでしょうが、間違いないです。「Please Please Me」は他にも「Dream Police」収録の「The House Is Rockin’」のエンディングでも同じように登場するので、ある意味リックのストック・フレーズなのかも知れないです。未聴の方は探してみてください。気づくと思わず「ニヤリ」ですよ(ちなみに「The House Is Rockin’」にはヤードバーズの「Think About It」のリフも登場します)。
 次は有名どころ、クィーンの「Sheer Heart Attack」、アルバムの方ではなく「News Of The World」の3曲目に収録されている楽曲の方です。これはもう聴いたらすぐわかりますね、冒頭にいきなり「I Saw Her Standing There」の最初の2行が、思いっきりそのまんま出てきます。これ、著作権的にどうなってるのかしら?この曲、ほぼワンコードのハードロックなんですが、非常に不思議なアレンジで、曲の構成がどうのこうのというより、聴き終わった後は「ものすごい疾走感」だけが残る変わった名曲です。ライヴ盤にも収録されていますが、「I Saw Her Standing There」はちゃんとどのテイクにも出てきます。
 お次は厳密にはビートルズの曲ではないですが、イエスの「I’ve Seen All Good People」。二部構成の前半「Your Move」の最後のほう、大体2分50秒過ぎ、サビのコーラスのカウンターメロディとして、ジョンの「Give Peace A Chance」が聞こえます。スタジオ録音ではかすかにしか聞こえず、名作ライヴ盤「Yessongs」ではカットされているんですが、その他のライヴテイクなどではちゃんと聴これてきますし、来日公演や数年前のジョン・アンダーソンのソロ公演でもちゃんと歌っていました。ジョンのソロコンサートではそのパートを観客に歌わせようとジョン自身が身振りで促してもいました(観客のみんなもちゃんとわかったみたいでした)。実はイエスには「Every Little Thing」や「I’m Down」のカヴァーがあって、その音楽性にもビートルズからの影響が感じられるんですが、ジョン(レノンのほうです)の理想主義的側面が、これまた(ちょっと浮世離れしていますが)ジョン(アンダーソンのほうです)の琴線に触れたんではないかな?僕は大好きです。
 そしてやっと今回の本題です。
 「ガイド」の121ページは名曲「A Day In The Life」の解説なんですが、その文書の最後でデヴィッド・ボウイへのこの曲の影響を書いていらっしゃいます。ボウイの「Ziggy Stardust」について「僕はタイトル曲の『屈折する星くず』が一番好き。ある時その原因に行き当たった。この曲にも『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』のコード進行が使われているのだ。レノン・フリークのボウイの真骨頂である。」(shiropの注:「この曲も」の「も」は、引用部分の前に、チューリップの「心の旅」の出だしのコード進行が「A Day In The Life」から拝借していると財津和夫氏が話していたという部分をさしています)と書かれています。おお、そうだったかと驚き納得したんですが、その森山氏なら絶対に気づいているはずのことが書かれていない。きっとスペースの関係で割愛したんだなあと思ったので、ここの記します。
 ボウイの1975年の名作「Young Americans」は、ボウイのキャリアの大転換点になったアルバムですが、そのタイトル曲に、この「A Day In The Life」のフレーズが出てきます。3分50秒過ぎ、女性コーラスが気持ちよさそうに「I heard a news today oh boy」と歌っています。メロディはもちろんあの曲の冒頭そのまま(歌詞がちょこっと変わっているのが興味深いですね)。ビートルズファンはよくご存知のとおり、このアルバムにはジョンが参加していますが、そのへんもこのアレンジに繋がっているのかも知れません。これも初めて聴いたとき、驚きました。非常に印象深いところです。将来「ガイド」の増補改訂版が出るときには、きっとこのエピソードも載るんじゃないかなと密かに思っています。
 ビートルズのカヴァーやパロディは数多く、ファンはいろいろなところでそうしたものを見聞きしますが、今日ここに書いたものはどれもそれぞれのアーチストの「ビートルズファンぶり」が窺えて楽しいものです。どれも有名なものですが、もしまだ聴いたことがなかった、気づいていなかったという方がいらっしゃったら、ぜひ聴いてみてください。ビートルズファン的に楽しいことはもちろんですが、ロックの楽曲としてもそれぞれ魅力的なものです。
 最後にクイズ。エアロスミスのライヴ盤「A Little South Of Sanity」にも、ビートルズにゆかりの部分があります。どこで、元ネタはなにでしょう?ヒント:2カ所あって、どちらも演奏ではなくMCです。さあ、わかりますか?

Cheap Trick at Budokan

Cheap Trick at Budokan

News of the World

News of the World

Yes Album

Yes Album

Young Americans [ENHANCED CD]

Young Americans [ENHANCED CD]