小ネタ 夜空の火星に触発されて「Venus And Mars」を聴く

 今夜は満月。今月2度目です。今夜の月はブルームーンというそうで、ブルームーンといえば「Blue Moon On Kentucky」、いつもの僕ならそこから音楽の話題に入りますが(笑)、今日はちょっと違います。
 今(午後10時)天頂くらいに見えている満月の少し下。東の空に赤い星が見えます。おわかりの方も多いかと思いますが、これは火星。今日は久しぶりの最接近の夜です。満月が出ていると他の星はちょっと居心地悪そうなんですが、さすが冬の空はオリオンの一等星もアルデバランシリウスもいるので見応えありますね。火星まで駆けつけてくれて、実に華やかです。
 で、火星といえばアレですね、「Venus And Mars」(笑)。単純な連想で申し訳ありません。ご存知ウィングスの1975年作品です。
 このころのポールというと、名盤「Band On The Run」後の「黄金時代」真っ最中。70年代で一番輝いていたころですね。もちろん僕は後追いでそういうことを知ったクチですし、このアルバムをちゃんと聴く前に「Wings Over America」を聴いていたのでちょっと感覚にズレがあるんですが。このアルバムに収録されている曲はたくさん「Over America」で演奏されていて、それがとてもよかったので、ものすごく期待して聴いた、その最初の印象は…、「なんか落ち着かない」(笑)。
 曲はいいし、演奏もノッている。ポールがいい感じなのはわかるんですが、なんというか、「整理されていない」感じがしたのです。アレンジは分厚いけれど整理されていない感じだし、曲調にも統一はないし、ジャケットもなんか好みじゃないし(すごく高い評価をされてるんですよね、ちょっと信じられない)。だから白状しますが、僕はポールの70年代作品のなかで、このアルバムが「一番聴いていない」作品です。「Over America」での演奏がスッキリいい演奏だったことも手伝って、あまり棚から出さないアルバムになってしまったのです。
 今ならわかります、というか自分なりに思うところがあります。きっとポールは「舞い上がっていた」だろうと。ビートルズ解散後みんなからいじめられていたポールがついに「Band On The Run」で手にした「相応しい評価と人気」に素直に喜んでいる様子が、このアルバムの「賑やかさ」「山盛り感」(ニュアンス伝わるかな?)に出ているんだと。そう思って聴くと、この「厚い」感じも気持ちよく聴けます。このあとポールは、あの(最初で最後の)全米ツアーを行いますが、あの大規模な巡業には、こういうタイプの曲が必要だったとも思えます。僕はこのアルバムでは「Treat Her Gently 〜Lonely Old People」が一番好きなんですが、もし他のアルバムに入っていたらもっとシンプルだったろうアレンジが、これまた厚いのも、ポールの気持ちを象徴しているようで、ファンとしては(今となっては)微笑ましいです。
 空の火星のおかげで、今夜は本当に久しぶりに「Venus And Mars」最初から最後まで聴きました。決して「最高傑作」ではないですが、70年代のポールが「乗りに乗っていた」、愛すべき作品だと、今は実感しています。

ヴィーナス・アンド・マース

ヴィーナス・アンド・マース