今夜も夜空に触発されて、ジョー・ミーク徒然

 昨日に続いて今日も夜空ネタですすみません。僕の住んでいるあたりは昨日の夜中過ぎから雲が出てきて、朝はちょっとはっきりしない天気でしが、(土曜出勤で)忙しく働いて夕方帰路につき、電車の窓から外を見たら…。
 目の高さに赤い月。昨日が満月でしたのでまん丸ではないですがはっきりと。本当に美しい。主に夏に出る「東の低い空にある赤い月」、僕は大好きなんですが、今夜逢えるとは!そこからはずっと電車の窓から東ばかり見ていて、だんだん高く登っていく(そしてだんだん白くなっていく)月を眺めていました。昨晩もでしたが、今夜も本当に美しい夜空です。
 で、月を眺めながら聴いていたのが、今日のお題、ジョー・ミークの「I Hear The New World」というアルバム。ちょうど今サイモン・シンの「宇宙創成」(新潮文庫)を読んでいるところでしたので、そのBGMも兼ねて。
 ジョー・ミークってご存知ですか?イギリスの音楽プロデューサー。もう故人で、活動していたのは1950年代後半から60年代半ばといったところ。トーネードズの「Telstar」というヒット曲をご存知の方は多いと思いますが、あの曲は事実上、プロデューサーのジョー・ミークの作品です。イギリスのフィル・スペクターともいわれた、非常に独特の音作りをする一種の「奇人」ですが、その人が残した本人名義のアルバムです(公式リリースされなかったとも、EP二枚組で出たともいわれています)。
 内容はというと、本当に「独特の音世界」としかいいようのない、他の誰とも何とも似ていない不思議な音楽です。少しトロピカルな感じのリズムに乗って、様々なエフェクトで変調されたコーラスや楽音が続くというもの。決してノイジーではないですし、楽しい雰囲気の部分もありますが、とにかく不思議な響きです。「Pet Sounds」とは違った意味で、商売や人気といった思惑を度外視した、まさに「ジョー・ミークの頭の中」とでもいえるようなものです。一言でいえば「スペイシー」かな?それも最新の知識とテクノロジーで作られたものではなく、60年代の非常に限られた機材とアイデアで作られた。レトロといってしまえばそれまでですが、先に書いたように「売ろう」「受けよう」「褒められよう」という色気がまったくなく、ただ「思い描いた音世界を実現させたい」という気持ちが強く伝わってくるので、変な表現ですが胸に迫る迫力を持っています。
 今日聴いていて気づいたんですが、ダブと通じるような音作りのセンスもあるようです。早すぎたダブ。生演奏を頂点とする「音ヒエラルキー」の対極にある「録音技術を駆使して個人が音楽を創り上げる」響き。イギリス軍にいたころ通信用のスピーカから聞いた「電波」の音に触発されて作ったというこの音は、永遠に古びない「不思議な響き」なんだと思います。奇しくもこのアルバムのジャケットにも月の写真が載っています。ジョーも深夜一人で月を眺めたことがあったんでしょうね。今夜は僕がそうしています。そしてこの音の世界に遊んでいます。月の光も音楽の縁も、思えば不思議な奇跡のようです。
 それにしても「私は新しい世界を聴いた」という言葉の恐ろしいほどの美しさは、信じられないほどです。