新譜評 リンゴ・スター「Y Not」

 先日発表されていたリンゴ・スターのニューアルバム「Y Not」僕もようやく入手して聴いてみました。リンゴについて書くときには毎回書いていますが、この10年ほどのリンゴの活躍ぶりは(残念ながらあまり報道されませんが)目を見張るもので、発表されるアルバムも名作揃いでした。さて、今回も期待大です。どうだったか。
 結果を書くと、これまた名作です。というか、もしかして傑作?まだそんなに聴きこんでいないのでひとまず保留しますが、これは良い作品です。いつもながら豪華なゲストもいますが、以前の「いかにも多彩なゲストが演奏していることがわかっちゃう」感じではなく、ちゃんとアルバム全体を貫くセンスを感じます(これはここ数年のリンゴの作品全部にいえることですが)。ポール・マッカートニーとの共演がなにしろ注目されますが(事実、実に興味深い共演です)、僕は個人的にエドガー・ウィンターやゲイリー・ライトの名前があったのが嬉しかったです。
 ポールが参加した曲のうち「Peace Dream」はジョン・レノンをモチーフに、リンゴらしく「平和への希望」を歌った曲。この曲でポールはベースを弾いていて、つまり「ビートルズのリズム隊」の再現です。曲自体は「ものすごい迫力」をもったものではないですが、ゆったりしたムードながら切々とした歌詞と歌声(そしてちょっとビートルズ的なアレンジ)が胸に迫るものでした。もう1曲の「Walk With You」はタイトルどおり「友人である2人の絆」を歌ったもの。もちろん僕たちはリンゴとポールを思い浮かべますが、それだけに限定されない広がりをもった曲です(曲中エルヴィス・プレスリーにちょっと言及していますね)。この名曲をリンゴと共作したのはかのヴァン・ダイク・パークス。ベースのクレジットが無記載なんですが、これもポールではないでしょうか?途中「C Moon」らしいフレーズが入るのはポールのアイデアかな?
 ちょっと気になったのは「The Other Side Of Liverpool」。ライナーノーツでは「Liverpool8」のイベント時にあったリンゴバッシング事件と関連づけた解説がなされていました。歌詞は率直にリヴァプールの友人達を懐かしんだもので、「Liverpool8」(曲の方ね)と同傾向のものですが、ちょっと暗めのアレンジで、深読みできるものかも知れません。振り返れば最近のリンゴは、英国女王即位イベントでも翼賛的なムードとは違う発言をしていましたし、例の「サインしないよ事件」など、年齢やパブリック・イメージからは想像できないくらいの「ロックミュージシャン」ぶりを発揮しています。このアルバムも、あくまでリンゴらしいたたずまいながら、演奏はタイトで歌詞は「辛い現状を踏まえながらも希望を持ち続ける」というものが多く、変な表現ですが「とてもロック的」であります。これが単なる気まぐれや誰かの入れ知恵ではないことは、長くリンゴを聴いてきたファン、そして熱心なロックファンなら理解できると思います。そういえば先日のグラミー賞にプレゼンターとして登場したときもとてもスリムで精悍な感じでした。堂々とした、と表現もできるような雰囲気は、今のリンゴのいい状態を現しているのかもしれません。
 全10曲、40分ほどの作品ですが、これは名作です。リンゴの作品はなぜかリアルタイムでは真剣に受けとめられてもらえず、廃盤になってから急にプレミアがついたりしますが、そんなことになってから苦労しないように、興味のある方はぜひ今手にとってみてください。

Y NOT

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