酷寒の空の下「Wild life」を愛でる
今日の南関東、とても寒かった!というか現在進行形で寒いです。仕事で外出したんですが途中から雪になり、帰宅するときは家までの道路がうっすら白かったです。あと2週間で桜が咲こうって時期なのに、困ったものです。
で、ここから音楽の話題ですが、この時期、こういう天気だと反射的に思い出すアルバムが2枚あります。ザ・フーの「四重人格」とウィングスの「Wings Wild Life」です。なんのことはない、どちらも遙か昔、こういう雪模様の日に買ったというだけなんですが。で、今日は「四重人格」はおいといて、お題は「Wild Life」です。
ポール・マッカートニーがビートルズ解散後結成したバンドがウィングスだということは、わざわざ書くまでもないことですが、70年代をほぼ全部活動時期として、最終的には大ヒットアルバム、大ヒットシングル、そしてツアーも大成功という具合に世界的人気を誇ったバンドのファーストの評判があまり高くないということも、これまたみんな知っているということになっています。確かにこのアルバム、全体的にラフ・アンド・レディ度が高くて、ポールらしい完成度はありません。よく語られることですがこの時期のポール(ウィングス結成は1971年)はビートルズ解散の余波でいわばヒール的な立場にいて、そういう空気もあってか、記念すべきウィングスのファーストなのにチャートでもパッとしない成績でした。
実際に聴くとどうかというと、これがけっこう辛いところがあります。楽曲自体はちゃんとしていますが、結成したてのバンドのアンサンブルはまだ独自色を出しているとはいいにくい、録音も全体に「高音が出ていない」というか「低音が響きすぎ」というか、ボトムにウェイトが置かれたといえば聞こえはいいですが、という感じ。で、一番強く感じるのが「編集不足」ということです。どの曲も「なんだかイントロ長い」「エンディング長い」「コーラス多すぎ」「音がレア過ぎ」などと感じるのです。もっとちゃんと編集して音も整えたら曲の良さが引き立つのに、と。このアルバムが約2週間で作られたということは有名ですが、聴いていると本当にそれくらいで作ったんだろうなあと変な納得をしてしまいます。
最初のころはそういう部分が物足りなくて、完成度の高い「Tomorrow」ばかり聴いてたんですが、聴きこむにつれてだんだん愛着が湧いてきました。そしてどうしてポールがこのように未完成(言い切っちゃったけど、ご理解いただけますよね)なものをリリースしたのかも察しがついてきました。つまりポールは一刻も早くライヴをやりたかったんです。「Get Back Session」ではかなわなかった「もう一度ステージに立つ」という「夢」をかなえたかった。翌年から始まる例の「アポなしツアー」なんか、本当に「これがやりたかったんだ!」というポールの気持ちがよくわかります。そういう意気込みや気負いが、あのアルバムを「完成度を高めるために時間をかける」よりも「とにかく出して、ツアーだ!」という勢いでパッケージしてしまったんだと。
このアルバム発表後しばらく、ウィングスはマスコミにも内緒で大学などを回ってコンサートし続けます。ジョンやジョージが大きな会場で、ネームバリューに相応しいコンサートをやったのに対してポールはあくまで「新人バンド」としてスタートしています。そこに僕たちファンはポールの意地を見いだします。自分を批判したファンやマスコミに「俺はここから始めるんだ、ここから登ってやる」と語っているかのように。ポールの意地は結果的に勝利を収めました。この数年後ポールは「くだらないラヴソングを歌うことのどこが悪い?」という曲を大ヒットさせ、大規模な(そして70年代のポールとしては唯一の)北米ツアーを大成功させます。「Wild Life」を出したときポールにそこまでの明確なヴィジョンがあったとは、さすがに僕も思いません。でも「絶対このままでは終わらないぞ、頂点までいってやる!」と決心していことは確実だと思います。その後の活動はまさしくそれを証明しています。
ずっと以前ですが、僕はブラインド・フェイスのアルバム評を書いたことがありました。そこで僕は「もしもあのグループが継続して活動し何枚もアルバムが出ていたら、ファーストアルバムは『荒削りだけれど彼らの原点だ』と評価されたに違いない」と書きました。ウィングスの「Wild Life」は、その「もしも」を実現したアルバムではないか、と思っています。
タイトル曲「Wild life」。幾分スローなこの曲は、上に挙げたこのアルバムの特徴をすべて持っています。演奏は洗練されていないし音は低音強すぎ、繰り返しも多くて冗長です。でもこの曲でポールが聴かせてくれる絞り出すようなシャウトを聴くと、彼の熱い思いと「俺は俺の信じる音楽を演っていくんだ」という決意を感じます。なんだかんだいって、僕にとってこのアルバムは、かなりの頻度で聴き返すアルバムです。
- アーティスト: Paul McCartney
- 出版社/メーカー: EMI Europe Generic
- 発売日: 1993/06/10
- メディア: CD
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