AC/DCは本物の芸術家だった(3月14日 さいたまスーパーアリーナ)

 ほぼ定刻に「いかにも」なオープニングアニメが上映開始、そしてそのエンディングとシンクロする形で暴走列車AC/DC号とメンバーがステージに登場、もうその段階で会場は大騒ぎです。
 大変な前評判だった今回のコンサートですが、冒頭からその期待は叶えられた、そんな感じでした。オープニングは新譜からの曲でしたが、基本的には彼らのオールヒットのプログラム。どれも大喝采大声援です。ソールドアウトだった12日に対して、僕が行った14日は当日券も出たらしいですが、それでも相当な動員でした。僕にとっては初めてのAC/DC体験でしたが、想像を超える観客のボルテージは、変な表現ですが「さすがAC/DCだ」と思ってしまいました(余談ですが、開演前、会場の外ではアンガスのコスプレをした人を何人も目撃しました。紙で作ったギターまで持っていて、みんなで記念撮影までしていましたよ)。僕も付けていましたが、「デヴィルズホーン」というチカチカ光る「角」(要するに電飾つきのカチューシャ)をつけた人が多く、会場全体で赤く光っていたのも楽しかったです。
 コンサートはもったいぶることも出し惜しみをすることもなくガンガン進行し、1曲ごとに会場の熱気も上がっていきました。「The Jack」ではアンガスのストリップもあり、「Hell’s Bells」ではあの大きな鐘にブライアンが飛びついて鳴らし、「Whole Lotta Rosie」では愛しのロージーちゃんはAC/DC号に跨ってリズムをとっていました(なかなかのリズム感)。ビートは最後まで一部のスキもなくタイトだったし、ブライアンの声も上々、もちろんアンガスもステージを走り回って会場を煽り、大音量でギターを弾きまくっていました。あのダックウォークを下から撮った映像がビジョンに映されたときは鳥肌が立ちました。
 僕のAC/DCに対するイメージははなはだ安易なもので、最近になるまでそれは変わりませんでした。一つ前の日記でそういう部分から別の考えに移りかけていたところだと書きましたが、今回のコンサートを観て、彼らの存在は、それほど単純なものではないという考えがさらに深くなりました。演奏はもちろん「アレ」だし、「アレ」自体に深読みは不要だと思いますが、その核心たる演奏そのものは、単純ではありますが決して勢いだけ・ノリだけではありませんでした。実にしっかりしているしテクニックもある。ロックンロールを基本にもっているバンドによくあるような「悪ノリ」でだれることもなく、ジャム的な内容を盛り込むこともなく(長尺のソロなどあったにもかかわらず)、集まったファンの要望に最大限応えながら、アーチストとしての価値もまったく下げない、そんな不思議なものでした。「The Jack」での、アンガスの「ちょっとだけよ」タイムが終了したあと、上半身裸のままギターを抱えて演奏を再開したときの音色、フレーズの説得力はただごとではありませんでした。すごく基本的なペンタトニックフレーズだったんですが、その演奏はアンガスのブルースに対する造詣の深さと楽器演奏者としての才能をはっきり示すもので、いくぶん単純な見方しかしていなかった僕は本当の意味で「刮目」しました。
 さきほど「ファンの要望に最大限応えた」と書きましたが、そういうプログラムでありながら少しも「マンネリ」「客に媚びた」という印象を残さないのは、彼らが自分たちのやっていることに自信と誇りをもっているからに違いなく、そしてソレを支えているものは桁外れの才能と桁外れのプロ意識なんだと実感しました(そのあたりの感想についてはどうぷさんのコメントに触発されたものでもありました。どうぷさんありがとうございます)。あの音楽は、単なる初期衝動や個人のパーソナリティだけでは実現できないでしょう。それほどレベルが高かった。とんでもないプロ意識の怪物を観た気分です。まさに怪物。冗談でもなんでもなく、僕はもしかしたら「レッド・ツェッペリン級」の体験をしたのかも知れないと思っています。
 コンサートが終わってみたら、僕の耳は少しおかしくなっていました。こんな体験久しぶりです。ものすごい音量でした。でも演奏を聴きながら「ウルサイ」と思ったことは一瞬もありませんでした。大音量で圧倒されたけれどやかましくない。必然性をもって鳴らされた音楽だから、ちゃんと聴けたのです。本当、この日の素晴らしいコンサートで僕が思い知ったのは、AC/DCが優れた才能と技術を持ち、すべてに徹底したプロフェッショナルだったということです。「最後の来日」と言われることが多かった今回のコンサートですが、あれだけのことができる彼らにそう簡単に終わりの日はこないでしょう。またきっと来てくれると信じています。次回も絶対に行きます。素晴らしかった。もう一度書きます。AC/DCは本物の芸術家集団で、本物のプロフェッショナルでした。
 追記:まったくの余談ですが、彼らのビジュアルって、浦沢直樹が描く外国人という感じですよね。僕はそう感じています。特にブライアン。ぜひ本当に描いて欲しいなあ。ぜったいピッタリですよ。
 追記その2:上に書いた「デヴィルズホーン」、コンサート後は娘のドレミがつけて遊んでいます。光るのが楽しいみたい。実は娘にはちょっと芸を仕込んでいまして、僕が口三味線で「Whole Lotta Rosie」のリフを歌ったら「アンガス!」と相の手を入れるというもの(笑)。ずいぶん上手にできるようになりました(笑)。

バックトラックス-ライト兄弟は空を飛び、ヤング兄弟はリフを刻む(DVD付)

バックトラックス-ライト兄弟は空を飛び、ヤング兄弟はリフを刻む(DVD付)