偉大な詐欺師に最後の花束を
マルコム・マクラーレンが亡くなったという報道があったのは数日前でした。
それ以来、断続的にそのことを考えています。
彼がやったことはなんだったんろうと。
パンクという名の音楽には大きく2つのグループがありました。ニューヨークパンクとロンドンパンクです。時期的にはロンドンに先行するニューヨークパンクはどちらかというと芸術思潮という趣の動きで、アーチストも音楽性も多様で、今も語り継がれる名作が多く生まれました。純粋に音楽という意味ではロンドンのそれに匹敵するというよりも、むしろ質は高いといえるかも知れません。
でも今、パンクというと真っ先に浮かぶイメージは、間違いなくロンドンのそれです。幾分類型的なものですが、安全ピンに奇抜なヘアスタイル、性急な8ビートとシリアスな歌詞。そしてどこか漂う「いかがわしさ」。
あらゆる意味でパンクのアイコンであるセックス・ピストルズの誕生にマルコムが大きく関与していたことは有名ですが、音楽そのものはグループのオリジナルでした。スタートにどれほど「入れ知恵」があったとしても、実際に生まれた音楽は「仕掛け人」の思惑を離れて愛され、評価されていきました。
じゃあマルコムが生んだものとはなんだったのか、彼はなにをやったのかというと、ロンドンパンクという、どちらかというと地域性・同時代性の要素が強いムーブメントに、とてもわかりやすい「形」を与えたということなんだと思います。上にも書いたように、音楽そのもので語るとしたらニューヨークパンクはロンドンパンクにひけを取りません。一歩退いて考えれば、ロンドンパンクそのものも、大きな「ロック地図」「ロック年表」の中では「重要な位置を占める」ということに尽きてしまいます。でも僕たちが、誕生から30年以上経った今も、「パンクといえばあの感じ」と思い浮かべられるファッション、そこから連想される非常に前衛的なスタンスは、もしかするとマルコムの頭の中から生まれたものなのかも知れません。
ピストルズを売り出したあとのマルコムは自身でも音楽を発表しました。全部ではありませんがいくつかは聴いたことがあり、はっきりいってどれにも感銘は受けませんでした。(亡くなったのに失礼かもしれませんが)彼自身に後世に残るような音楽の才能はなかったのかもしれません。彼の最大の功績は、パンクという衣装を創り上げ、それを最も必要な時期、場所で、最も似合う者達に「着せた」ことなんだと思います。直接音楽に繋がらないために軽んじられがちですが、それは大変な功績ですよね。たぶんこれから先、ロックが「行き過ぎた洗練」に陥ったときに「揺り戻し」「ストリートからの反論」が起きるたびにロンドンパンクは引き合いに出され、そこに浮かび上がるのはマルコムが生み出した「形」なんでしょう。もしかしたら僕たちは、永遠にマルコムという「偉大なロックンロールの詐欺師」に騙され続けるのかも知れません。こんな物言いはマルコムには最も似つかわしくないですが、僕たちを騙し続け、覚醒させ続けてくれるであろう偉大な詐欺師様に、謹んでご冥福をお祈りします。
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