キャロル・キング、ジェイムス・テイラー公演に行ってきました

 先週の金曜と土曜(4月16日、17日)に、キャロル・キングジェイムス・テイラーのコンサートを観てきました。16日は日本武道館。1階席西スタンドでステージを真横に見下ろす感じ。横浜ではまったく見られなかったドラムセットがこの日はよく見えました。横浜は1階席でしたがステージ向かって右端。でもダニー・コーチマーがすぐ近くだったから問題なし(笑)。
 ほぼ定刻に2人が仲良く一緒に登場、そのまま静かに始まったのはジェイムスの「Blossom」、そして次はキャロルの「So Far Away」。以下、ほぼ2人のナンバーが交互に登場する感じでコンサートは進行しました。
僕はジェイムスを実際に観るのは初めてでしたが、お年を召して御髪こそ(以下自粛)でしたが上品な物腰、そして本当に惚れ惚れするような美しい声とギターで、文字どおり観客を魅了してくれました。オープニングの「Blossom」の第一声が流れたときは、満員の観客席が(変な表現ですが)静かにどよめいたような反応をしていたのが忘れられません。対してキャロルは前回前々回のときと同様、とても明るく楽しそう。僕が観た2回とも、ピアノから離れてマイクで歌うときなど、ピョンピョン飛び跳ねながらステージを駆け巡っていました。
 今回の来日で僕が最も注目していたのが、バンド形式でコンサートを行うということでした。しかもメンバーにはダニー・コーチマーを始めザ・セクションのメンバーがいる!ということで期待していました。そしてその期待は、これ以上ないくらい良い方向でかなえられました(ちなみにバンドの紹介のとき、ジェイムスは「original band」と表現していました。もちろん大喝采)。ダニーのギターは音楽ファンなら間違いなく「生で聴けたことを神に感謝する」ようなレベル。そしてリズムセクションの2人も本当に上手い。武道館も横浜も音量は(普通のロックコンサートとしては)控え目だったんですが、それが絶妙な塩梅で、ボーカルも引き立つし演奏もしっかり聴こえてきて、派手ではないけれど滋味深いベテランの演奏をじっくり味わえました。ベースのスカラーなんて容貌は白のガンダルフのようでしたが、歌うような、そして手堅いベースライン。最近ベースを買い替えたオヤジの僕は感激するような演奏でした。コーラスを含めた他のメンバーもみんな上手でまとまりがあり、2大スターのバックミュージシャンというよりも、「こういう編成のバンド」というふうな一体感が感じられました。
 特筆すべきは、そして印象に残ったのはキャロルのコンディション。前回前々回と「リヴィングルーム」形式だったのが通常のバンド形式に変わったわけですが、全体を自分だけで背負い込む必要がなくなり、いい意味で「自分に専念」できるようになったためか非常にいい感じでした。それはピアノ演奏に顕著に現われていて、ジェイムスのバックに回ったときの演奏や「It’s Too Late」でのピアノソロなどはまさしく名演奏でした。弾き語りではないですが「I Feel The Earth Move」など、楽器を持たずに歌う曲なども、他のメンバーがいるという安心感が彼女の気持ちを解放していたんでしょう、本当にはつらつとしていました。それは観客である僕たちも同じです。僕は今回初めてベースとドラムが参加した形でのキャロルの曲を聴けましたが、音楽が弾んでいるように感じられました。特に「Smackwater Jack」など、前回までの公演よりずっと華やいだものでした。やっぱり本職のリズムセクションはすごいや。「Jazzman」の出だしなんて鳥肌が立つようでした。
 さて、肝心の曲目ですが、一言でいうと「2人のヒットパレード」。代表的な曲が目白押しでした。どちらの持ち歌ももう一人が演奏とコーラスに参加していました。「long Ago And Far Away」と「Song Of Long Ago」は2曲をブランクなしで続けて、まるで組曲のようでした。「Crying In The Rain」を歌うときはジェイムスが「以前アート・ガーファンクルとこの曲で競演したんだけれど、いい曲だったんで誰の曲かと思って調べたらキャロルのだったよ」なんて話していました。武道館では「Hi De Ho」をやってくれましたが横浜ではかわりに「Chains」!ちゃんと「ビートルズも取り上げた曲」と紹介されていました。個人的に一番胸に迫ってきたのはキャロルが「ツギノキョク フルイ、トッテモフルイ」と言った後小さく「like me」と語ってから始まった「Will You Still Love Me Tomorrow」。名演とはこういう演奏・歌唱を指すんでしょう。この曲でも(そして、どの曲でも)傍らにいて、優しい歌声を重ね、ギターの音色を添えるジェイムス。僕は正直、ジェイムスにはものすごい思い入れはなかったんですが、今はすっかり彼が好きになりました。
 コンサートは(遂に日本で実現した、2人競演の)「You’ve Got A Friend」で終了。アンコールは「Up On The Roof」「How Sweet It Is(To Be Loved By You)」と続きます。武道館ではこのあと「Locomotion」でお開きだったんですが、横浜はちょっと違いました。実は横浜ではアンコールのときジェイムズが「みんな前においでよ」と呼びかけ、けっこうな人数がステージ前に走って行きました(僕は行きませんでしたが)。とてもいい感じにホットなムードになりましたが、大騒ぎではなく節度があるところがこの日の観客のメンタリティを表していました(笑)。そして「Locomotion」が始まる前に、フロントの2人がイスに座り、なんと「You Can Close Your Eyes」を2人だけで歌ってくれたんです。本当に素晴らしかった。歌い終わった2人も思わずほほを寄せ合っていましたから、思いは僕たちと同じだったのかも知れません。そして本当の最後の最後、全員総立ちで「Locomotion」!キャロルもジェイムスも、そしてバンドのメンバーも最後にはみんなステージの前に出て、観客のみんなと握手をしたり手を振ったり。最高のムードでお開きとなりました。
 今回のコンサート、演奏された曲はほぼ全部30年以上前の曲でした。プレイも落ち着いたもので、それだけ考えれば「大人のロック」な評価で落ち着きそうです。でもそうではなかった。先月観たAC/DCボブ・ディランもそうですが、キャロルやジェイムスの生み出した音楽は時の試練に耐えて本当の「スタンダード」になったということを証明したんだと思います。世代的な・地域的な尺度を持ち出さなくては語れないような半端なものではなく、「本当の価値を持ったもの」に。僕は幸運にも、自分の国にいながら2回もそれを目撃し、楽しむことが出来ました。横浜公演での「You’ve Got A Friend」ラストでキャロルは「今夜が日本ツアーの最後なの。とても楽しかった。本当にありがとう」というようなことを歌っていましたが、ありがとうと言いたいのはこちらです。キャロル、ジェイムス、そしてバンドのみんな、来てくれて歌ってくれて本当にありがとう。あなたたちの成し遂げたことは長く語り継がれるでしょう。僕も忘れません。最後の最後、大歓声を上げる観客席にくれた「また来るわね」という言葉を信じて、再会をいつまでも待っています。

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