矢沢永吉に再入門

 突然ですが、みなさん矢沢永吉って聴きますか?恥ずかしながら僕はほとんど聴いたことがありませんでした。一応「ゴールドラッシュ」「I LOVE YOU,OK」それに編集盤、を数枚持っている程度(アナログだけですが後楽園ライヴ2枚組も持っています)。キャロルもベストを1枚持っているだけです。嫌いなわけではなく、聴けば「うん、いいなあ」と思うんですが、続かないんですよね。センスがいいのもボーカリストとしての色気やうまさもよくわかるんですが。音楽全体から、あるいは永ちゃんご本人のキャラクターから強く感じる「ドメスティック」さ(ニュアンスご理解ください)にどうしても馴染めないものを感じてしまうのです。単なるイメージではなく、ご本人が折に触れてそれを強調するようなことも話しているのでなおさらです。疑いもなく日本でもっとも巨大な存在であるロック・ミュージシャンに対して、僕はずっと「態度保留」でした。
 最近になって、ふと「もう一度ちゃんと聴いてみようかな」と思うようになりました。きっかけがあったわけではないんですが、あえていえばあの「紅白」かな?それに、少し前ですがタワーレコードが出しているフリーペーパーに特集記事があり、その中の「かつて渋谷陽一が『矢沢永吉はオシャレ』という切り口で本人をゲストに呼びラジオ番組で特集した。これがきっかけで聴くようになった自分のような『文系男子ファン』は多い」(カギカッコ内は引用ではなく要約です)という文章を読んだからです。僕もこの番組聴いていました。そこでの矢沢永吉は非常に知的で、僕もそれまで抱いていた「ヤンキーの王様」というイメージとは違うんだということを認識したのです。そのことを思いだし、再挑戦したのです。ちょうどいいタイミングで新譜「TWIST」が出る。これはなにかの巡り合わせだ!とばかりに、勇んで購入しました。発売日である6月9日=ロックの日に。
 1曲目、いきなり全開モード、歌詞も音楽の感じも、どことなくRCを感じさせるようなナンバー。2曲目からはイメージどおりの「永ちゃん」でしたが、前半は曲調も演奏もかなりレベルが高く、僕のような「洋楽慣れ」した人間にも楽しいものでした。それになにしろボーカリストとしての力量がハンパじゃない。男性ロックボーカリストの色気ってなかなか達成が難しいというのが僕の持論なんですが、この人は例外的にクリアしていますね。すごいことです。ただちょっと、アルバムが後半になるにしたがって曲調や歌詞がいわゆる「日本的」というか「ヤンキー的」というか、そういう方向にいってしまって、いや、それが本来の、ファンが求める「永ちゃん」なんでしょうから問題ないのかも知れませんが、「洋楽方面から来た初心者」にはちょっと馴染みにくい感じでした。そのへんの感想は、以前から持っていた印象とあまり変わらなかったです(特に歌詞は、正直入り込みにくい世界でありました)。ただ全体にプロダクションワークは完璧で、作品の質は高かったです。なにしろ前作から1年未満での発表(すみません調べて書いてます)でタイトルが「TWIST」ですからね。ものすごいエネルギーです。
 実は「TWIST」聴き始めてからご本人の著作である「アー・ユー・ハッピー?」(角川文庫)を読み始めているんですが、これがまたすごい内容。詐欺事件のことや離婚のこと、ファンやビジネス、音楽について、イメージそのままの語り口で綴っています。自分を信じて、最善と信じたことをやり遂げる。ふつうもっとオブラートにくるんで書くだろうというようなこともあけすけに書いています(もちろん著者の主観でですが)。そこにあるのは日本人的にウェットな感性と、それとうらはらな日本人離れした行動力。上述の番組ではぼんやり「矢沢永吉って知的な人なんだなあ」と思った僕ですが、実際にニューアルバムを聴き、著作を読んだ今は「矢沢永吉は一筋縄では理解できない」と思っています。
 本当に正直なところ「作品を全部揃えて聴きたいか」と問われれば、そこまでのめり込んではいないんですが、でもなんだか、以前よりも惹かれていることも事実です。今頃になってこんなことでお恥ずかしいですが、しばらくは聴きこんでいこうと思っています。とりあえず前作は買おう。ちなみに前作って「ROCK’N’ROLL」っていうんですよ。すごいですよね。還暦で出すアルバムのタイトルがロックンロールにツイスト。やはりただ者ではないです。

TWIST(初回限定盤)(DVD付)

TWIST(初回限定盤)(DVD付)

アー・ユー・ハッピー? (角川文庫)

アー・ユー・ハッピー? (角川文庫)