「ノルウェイ」で「ノルウェー」使用許可下りるという件

 村上春樹の小説「ノルウェイの森」が映画化されることはずいぶん以前から話題になっていましたが、今日になってニュースが届きました。なんと作品の中でビートルズの「ノルウェーの森(ノーウェジアン・ウッド)」が使用されることになったそうです。
 これがニュースバリューを持つというところがビートルズの偉大なところ。楽曲使用については著作権や原盤権が絡むので一筋縄ではいかないところが多く、特にビートルズは大変です。楽曲を使用するに際しては著作権の所有者が承諾する必要があり、これがまず第一のハードルになります。楽曲が使用されれば著作権者には曲の使用料と印税が入りますから、ビジネスとして「なにがなんでも断る」ということはありません(それでも権利者は拒む権利を持っていますから、あまり変なものには使用されませんが、原則として「使用するなら金を払え」という商売です)。ただ、それがどのような基準によるのかは、ことビートルズに関しては非常に難しい。
 先日読んだ「ノーザン・ソングス」(ブライアン・サウソール、ルパート・ペリー著 シンコー・ミュージック刊)にも1970年代当時ビートルズの楽曲を所有していたATVが「楽曲の使用依頼が売れば、著作物を貶めるようなものではないか、歌詞は変えていないか、私たちが考える基準以下のものと著作物が交わることはないかなど、細心の注意を払って検討したよ。許可を出す場合でも、使用者が出せる最高額のレートを要求した」と語っていたことが載っています。この場合もテレビコマーシャルでの使用は認められなかったようです(例外も僅かながらあったようですが)。で、いろいろ審査されたり交渉させられたりして、(最高額のレートで支払って)楽曲の使用が認められて、映画で使えるようになると、今度は「オリジナルが使えるのか」という第二の、そして最大のハードルが待っています。
 というか、ここが事実上のストップでした。これは原盤権をレコード会社(EMI)が持っていて、原盤使用権については著作権上の所有者の使用許諾とは別に存在することから起こる事態です。こちらも本来は原盤使用権を持っているものの一存で決まるんですが、たいてい原盤使用権はレコード会社が持っていて、レコード会社はそのビジネス上、アーチスト(作者)とのコミットメントが高く、そこでは作者の意向が反映されるわけです。特にビートルズの場合、あのアップルコープスがいて、そこでメンバー(とメンバー遺族)が承諾しない限りなにも決定しないわけですから、これはもう事実上「道はない」ということです(だからこそ数年前の「LOVE」でマスターテープの編集までできたのは、本当に驚きだったわけです)。
 実際ビートルズの楽曲を使用したCMも映画も多いですが、原曲が聴けるものはほとんどないです(日本映画で「悪霊島」という角川映画がなぜか「Let It Be」と「Get Back」を使用していたのが有名ですが、これもDVDでは別の曲に差し替えられているそうです。僕はリアルタイムで憶えているのですが、「映画に主題歌に別の映画主題歌を使うのか!?」と思った記憶があります)。前述の「ノーザン・ソングス」でも、マイケル・ジャクソンがレノン・マッカートニー作品の所有者になったあと、ナイキのCMに「Revolution」原曲を使ったことについての一悶着が書かれていました。ヒップホップ系のサンプリングの許可が一切出ないことも有名ですね(裏とったことないんですけど)。
 ところで僕は今回のニュースで少し気になることがありました。何年か前に出た中山康樹著「ビートルズアメリカ盤のすべて」という本にある対談で「英国の原盤権の期間はリリース後50年。2012年以後、ビートルズの楽曲はリリース順に『使用料さえ払えば誰でも発売できる』状態になる。だからEMIもキャピトルも、自分たちが完全にコントロールできるうちにコンピ盤(これは2004年に出たキャピトルボックスを指しています)を出そうとしている」という発言があったことです(カギカッコ内は引用ではなく僕の記憶による要約です。例によって本が本棚のどこにあるのかわからないので確認できないのです、すみません。大意は間違っていないはずです)。ロックではないですが、例えばクラシックの有名な「バイロイトの第九」などがEMI以外の会社からいくつもでているのは、原盤権が消滅したからだと聞いたことがありますので、そういうことなんだと思います。
 そうなると、この時期に「ノルウェイの森」に許諾が出たのも、そういう大きな流れの一環として考えられるのかも知れません。今はまだEMIがコントロールできるし莫大な使用料もとれる。しかもこれが大きな話題になればビートルズの楽曲のプロモーションにもなる。そういう「勘定」もあったのかも知れないですね。いずれにしても交渉にあたった映画制作者の手腕もさすがだとは思います。
 今回の許諾については、村上春樹の原作だからという部分がものをいったという報道がなされています。さすが世界の村上、それほど期待されているんですね。すごいものです。実は僕、昔は村上春樹好きだったんですが、ちょうど「ノルウェイの森」あたりから離れてしまい、今日に至っています。「1Q84」なんてタイトルの読みもわからなかったほど。自分でもなぜそうなったのかわからない、不思議なことです。以前は「羊男のクリスマス」まで初版で買った(今も持ってます)というのに。
 今日はこのニュースに影響を受けて、午後はずっと「Rubber Soul」を(いろんなバージョンで)聴き続けました。昨年のリマスターやらモノマスターやらアメリカ盤やら最初の国内盤CDやら。どれを聴いても、当たり前ですが素晴らしいです。音質とか時代とか関係なし(キャピトル盤のみ曲が違うのでちょっと面白いですが)。実は今日、昨日に引き続き体調不良で家から出なかったんですが、久しぶりにじっくり聴けて、少し身体の具合も良くなってきました。せっかくあまり前例のない原曲使用が認められたんですから、映画もいいものにしてほしいと思います。そしてこれまたせっかくのきっかけなので、僕ももういちど村上春樹、読み始めてみようかしら?今なら「1Q84」も入手簡単だろうし。

ラバー・ソウル

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ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

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ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

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