桑田佳祐さまへ、お見舞い申し上げます

 今日、桑田佳祐さんが食道がんで活動を休止されるという報道がありました。秋以降の活動はキャンセル、もちろんツアーも延期となりました。
 こういうニュースは、ただそのとおりに受けとめ、桑田さんの回復をお待ちするというのが、ファンとしてのあるべき振る舞いだと思います。これ以上のことは書きません。でもこれだけでは却ってネガティヴな印象の日記になってしまいますので、音楽のことも少し。旧譜についてですが。
 一昨年のサザン活動休止のときにこのブログにも書きましたが、サザンは時代が下るにつれて打ち込みや編集が凝ったものになり、バンドとしての実体は希薄になっていったように感じていました。最近の作品はどれもそんな感じです。この印象が強くなったのはあの「KAMAKURA」からでした。そこから後の作品にはずっと同じ印象を抱いています。
 その意味で「KAMAKURA」の直前作である「人気者でいこう」は、僕にとって「バンドとしてのサザン最後の輝き」であったと認識しています(あくまで僕の主観ですよ。音楽的にも人気という点でも、サザンのピークはそのあともずっと続きますし、僕自身もずっと好きです)。
 このアルバムも打ち込みはたくさんありますし、メンバー以外の人がゲストで参加している曲も多いですが、それでもこのアルバムにはまだ「6人のメンバーがみんなで作品を創り上げている」肌触りが強く感じられます。収録されているのも名曲揃いで、「夕方Hold On Me」「海」「あっという間の夢のTONIGHT」「ミス・ブランニュー・デイ」「シャボン」「女のカッパ」などの誰もが認める名曲に混じって「JAPANEGGAE」「開きっ放しのマッシュルーム」「なんば君の事務所」「祭はラッパッパ」なんてトリッキーな「名曲」が輝いています。とにかくどれも曲のレベルが高い。
 このアルバムが発表されたのは1984年、ロス五輪のころですが、記憶が確かならこのアルバム発表のころ、サザンはスーパー・エキセントリック・シアターと組んでテレビ番組も持っていました。評価も定まり人気も上がり、一番上昇気流に乗っていた時期のムードをそのまま写しとったような内容です。サザンは、いや桑田さんはその僅か1年後「KAMAKURA」によってその安定した地位を後にするわけですが(そしてその後もずっとトップを走り続けたわけですが)、そうであればこそ、「人気者でいこう」はある意味で「サザン第1期の最高傑作」(なにを指して第1期というのはちょっと不安ですが、まあ、「最初のころ」といったあたりですかね)だと思います。一昨年の「真夏の大感謝祭」ではバンドの歴史を振り返るようにたくさんの曲を演奏してくれましたが、僕が嬉しかったのはこの「人気者でいこう」からの曲が多かったことです。会場の反応もとてもよかったので、同じ思いの(同じ世代かな?)ファンの方も多かったのではないでしょうか?
 この名曲名演、いつ聴いても楽しくなれるアルバムは、「Dear John」という切ない名曲で幕を閉じます。ビートルズ・ファンでもある僕は、この曲を聴くたびに桑田さんのビートルズ、ジョンに対する愛情と悲しみを感じます(手書きの歌詞カードでリヴァプールの綴りを間違えていたのは意図的だったのかな?)。この曲はストリングスと管楽器をバックに桑田さんがボーカルという感じで、サザンの他のメンバーは参加していませんが、それでもそこには「桑田佳祐のソロ」という趣はなく、あくまで「サザン・オールスターズ」というバンドの息吹が感じられます。あくまで主観ですが、僕にとってはこれ以降なかなか感じられなくなってしまったこの「グループとしての肌触り」が感じられるという意味で「人気者でいこう」は忘れられない、一番愛着のあるアルバムです。
 桑田佳祐さま、心からお見舞い申し上げます。どうぞごゆっくり静養して、治療に専念してください。お元気な姿を観客として、満員のスタジアムの隅っこからでも拝見できる日を待っております。どうぞお大事に。

人気者でいこう(リマスタリング盤)

人気者でいこう(リマスタリング盤)