プリンスの新譜にある「謎の67トラック」(笑)

 昨日NHKでやった「洋楽倶楽部」よかったですね。スターレス高嶋(笑)氏もジョン・カビラ氏もロックに詳しいのでトークも面白かったしツボを押さえたものでした。ブルース・スプリングスティーンの販促用テレカを作ろうとしたら「ブルースの肖像を企業ロゴの入ったものには使わせない」と言われた話しとか(でもジャケットのギターはフェンダーロゴ丸出しだったような気がするけど)、シンディ・ローパーから邦題について文句を言われたとか、エイジアの初来日公演でカールのドラムがどんどんずれ(以下自粛)とか、けっこう興味深い話しがありました。僕くらい、あるいは僕以上の年齢のロックファンにとって80年代はちょっと斜に構えてしまう時代なんですが、もう30年近く月日が流れるといろいろわかってきたこと、許せるようになったこと(笑)も増えて、楽しんで観られました。で、いろいろ出てきたビデオクリップで、いい意味で全然印象が変わらないのが我らがプリンスです。クリップは当然「Purple Rain」。いやあ、今も昔も変わらぬ才能と「違和感」。さすがです。
 その殿下ですが、ちょっと前にニューアルバムが出ましたね。タイトルは「20Ten」。ここ何作かと同様、通常のCD会社からの発売ではなく「NPG RECORDS」製作となっていて、しかも「for promotional use only not for resale」とクレジットされています。どうやらこれまた海外では新聞などの付録として「無料配布」したようで(僕はタワーレコードで入手しましたが)、もう完全に殿下の自由手腕に基づいて動いているようです。こうなるともう日本盤は絶望的ですね。そのへんちょっと口惜しいです。
 内容はというと、個人的には「フムフム」という感じ。もちろんいい内容です。「あのころ」の革新性や衝撃などとは違いますが、ある意味で「殿下らしい」曲調・演奏で、楽しんで聴くことができます。今回はミディアムテンポの曲、バラードに佳曲がありました。前作がやたらとボリュームがあった反動か今回はコンパクトで聴きやすいです。
 内容の感想はそんな感じなんですが、一つ非常に特徴的なことがあります。具体的な内容とはまったく関係ないのに、これは書かずにいられません。なにか?このアルバム、9曲目の「Everybody Loves Me」まではごくふつうに進行しますが、10曲目からはなんと「(Blank)」というノークレジットのトラックが収録されています。これは文字どおり約5秒の「無音」のトラックなんですが、それがなんと全部で67個連続して入っているのです。だから約6分間「なにも聞こえてこない」状態が続きます。さすが殿下、ついにジョン・ケージを越えたか(笑)?いや、僕は一応これを書くために全トラック聴きましたが、とても辛かったです。ちなみに67個の「(Blank)」が終わった後は「(Secret Track)」というミディアムテンポなファンクが1曲あって、やっとアルバム全体が終わります。
 これにはなにか意味があるんでしょうか?僕にはあまり具体的な意味やなにかの象徴とは思えませんでした。かつてあったあの「Lovesexyアルバム1トラック事件」は「アルバム全体を、流れも含めてひとつの芸術作品として鑑賞して欲しい」という意志の現れと受け取れましたが、今回のものはなんだかさっぱり。敢えていえば「イジワル」かな?既存のメディアを嗤い、レコード会社の支配からひらりと身をかわし、アルバムを無料配布して自分は本質的に自由な立場を守っているという「孤高の存在」になった殿下が、僕たちファンにしかけた「ちょっとしたイジワル」。もちろん悪意のあるものではなさそうです。「まあ、ちょっと肩の力を抜いて引っかかっておくれよ」とでもいうような。前述の「違和感」の正体ですね。こういう部分を知ると、今の殿下が非常にノッておられるんではないかと思います。
 最近はコンサート活動も非常に盛んでしかも人気も高い殿下。でもこういう活動が主になると、どうしても欧米以外の地域は疎外されてしまいます。日本のファンとしてはなんとか置いてきぼりだけはしないでほしいなあ、活動が活発なだけにそのへんが辛いところ。殿下、どうか極東のファンにもお情けをかけてくださいませ。無音部分6分くらいガマンしますから(笑)。

20Ten

20Ten