原田真二のポリドール時代

 レコードコレクターズが2号連続で日本のロックとフォークのベストを特集していました。僕はあまり邦楽は聴かないのそんなに思い入れのあるアルバムもアーチストも多くないんですが、2号あわせて50枚くらい持っていました(もちろん後追いも含みます)。書店で立ち読みした程度ですのできちんと確認をしたのではないんですが、どうも僕が「絶対入っていてほしい」ひとが1人入っていませんでした。とても残念。そのひととは、原田真二
 このひとのデビューからしばらくの勢いはすごかった。真二のデビューは僕が中学2年生だったのではっきり記憶していますが、本当にすごかったです。しかも曲のレベルが普通の歌謡曲とはケタ違いでした。僕は今でもテレビの歌番組で初めて「てぃーんず・ぶるーす」を聴いたときのことが忘れられません。妹が見ていたそのテレビから流れてくるメロディを聞いた時僕はぼんやりと、でも確信をもって「この曲は外国のミュージカルかなにかの有名曲に日本語の詞をつけたんだろうな」と考えていました。それをそのまま口にしたときに妹から「これ、歌ってる人がつくったんだよ」という答えが返ってきたときは、本当に驚きました。真面目に「信じられない」と思いました。そしてその「信じられない」とう驚きと称賛は、その後立て続けにヒットした一連のシングル、そしてデビューアルバム「Feel Happy」も含んでずっと続きました。本当よ。当時すでに洋楽ロックを聴いていた(今から思うと非常に狭い範囲でしたが)僕は、いわゆる「日本のロック」にピンとくることは少なかったんですが、真二だけは別格でした。「Feel Happy」は今でも愛聴盤で、真面目に「日本ポップス史上の大事件」のひとつだと思っています(このアルバムより完成度の高いポップスのアルバムがあったら教えてほしいです)。
 そのころの真二の作品についてはベストも出ていますし話題になることも多いのでご存知の方も多いと思います。で、今日ぼくがここで話題にしたいのはその後の傑作群です。
 上記の「デビュー直後」(デビューから約2年)はフォーライフに所属していた真二ですが、その後ポリドールに移籍しています。アイドル時代が終わり、ロックミュージシャンとしては認知されず、一般的にはほとんど語られないいわゆる「ポリドール時代」ですが、この時期の真二の活動と作品のクオリティはとんでもないものでした(この当時唯一彼を取り上げていたのがあの「ロッキング・オン」でした)。アルバムは2枚、1980年秋の「Human Crisis」と翌年夏の「Entrance」そしてシングル数枚。このときの真二はレコード会社移籍にともないマネジメントも変更(独立)し、自由なアーチストとして活動しはじめた時期にあたり、作品にもその意気込みが強く感じられます。
 「Human Crisis」について特筆すべきはその音。このあと30年、枚数にすると5桁といっていい数のアルバムを(ジャンル問わず)聴いてきた僕ですが、こんな音ほかでは聴いたことがありません。真二のこだわりと「これからが自分の本当の活動だ」という意気込みがモロに音に現れています。特にリズムセクションの存在感は当時の「日本のロック」の水準など軽くクリアしています。いや、今でもこれ以上のものはそんなにないでしょう。もちろんそのほかの音も。当時の真二は「真二&クライシス」というバンドとして活動していましたが、ベースの関雅夫、ドラムの古田隆、ギターにあの北島健二を擁したこのバンドの演奏能力はすごかったです。僕は1979年の武道館、1980年の日比谷野音のコンサートも観に行きましたが、ライヴでも彼らの力は圧倒的でした。真二はキーボードの他ギターも弾きましたが、これが上手いのなんのって。そんな実力者揃いのバンドは「Entrance」でも実力を発揮していました。こちらも「Human Crisis」同様、なにかの模倣ではない、完全オリジナルな音楽です。
 この時期の真二は本当に神懸かり的な活動で、今聴いても、というか今だからこそそのものすごさが実感できるというものですが、惜しいと思うのが歌詞。このころは真二が完全に作詞作曲しており、彼が力を入れていたメッセージソングが大半なんですが、これが少し「堅い」のです。うーん、言いたいことは分かるけれどねえという感じ。もうちょっとぶっちゃけてしまうと、彼の作詞能力は彼の作曲能力ほど高くはないんですよ。だから歌詞を追いながら聴いていると、そのメッセージが消化不良気味になってしまうのです(決して悪くはないのですが)。そのへんがこの時期の真二の活動を若干でも一般受けから遠ざけてしまったかな?と思わなくもないです。
 アルバム以外でもシングルにいくつも名曲があります。この時期の彼はシングルヒットからも遠く、どの曲も多くの聴き手を得ることができなかったんですが、駄曲などありません。そのなかで特に好きなのが「Life」という曲。1981年の春に出たシングル。ギター主体のポップなロックで、前向きなメッセージがシンプルな言葉に託されている名曲です。リアルタイムでも「かっこいい!」と思っていましたが、今聴くとまさに戦慄するほどの質の高さです。僕は本気で思います。このクオリティはポール・マッカートニー級だと。
 アイドル時代(フォーライフ時代)はいくつものベスト盤が出ていて、ファーストの「Feel Happy」は再発を繰り返しているのに(リマスタリングして紙ジャケにもなりましたね)、ポリドール時代のものは(1回CD化され、その後発表された楽曲すべてをまとめた編集盤も出たのに)現在はほぼ廃盤状態です。本当に残念です。現在文字どおり「ポリドール時代」と銘打ったベストが1枚出ていて、シングル曲なども聴けてこれはこれでお得ですが、やはりこの時代の真二はアルバムを聴かねば話しになりません。たった2枚ですが、僕にとっては欠かすことのできない「日本のロック」です。ぜひ再発してほしい。そして少しでも多くの人に聴いてもらいたい。時代はYMOデビューからまだ1年くらいしかたっていないころ、若干20歳ほどのアーチストがどれほどの偉業を成し遂げたか、きっと今なら多くの人にわかってもらえるはずです。

ゴールデン☆ベスト 原田真二 ポリドール・イヤーズ(1980-1981)

ゴールデン☆ベスト 原田真二 ポリドール・イヤーズ(1980-1981)

 追記:上記のベストは渡邊文武氏がライナーを書いていますが、年齢的には僕より少し若い渡邊氏も僕と同じように79年の武道館、翌年の日比谷に行ったと書かれていて嬉しかったです。当時のクライシスは(後にアルバム収録する)新曲をたくさん演奏してくれました。僕は今でも日比谷で聞いた「Brand New Age」の、あのシンセループのイントロを聴いたときの興奮を忘れられません。