小澤征爾さま いつまでもお元気で

 NHK午後9時からのニュースで、小澤征爾(以下、敬称略)がガン闘病からの復帰を果たしたという内容の報道がありました。サイトウ・キネン・フェスティバル松本で指揮台に立つそうです。放送では短いインタビューなどを挿入しながら、リハ2日目の演奏中にオケが突然「ハッピー・バースデー」をはじめるという微笑ましいシーンなどを流していました(小澤の誕生日は9月1日)。病気の報せを聞いたときは心配しましたから、ごく短時間の指揮ではあっても復帰されたのにはホッとしてしましますね。
 ところでこの夏、僕は小澤絡みのCDを2つ入手しました。ひとつはちょっと変わり種のもので、パリのシャンゼリゼ劇場の自主製作盤。アンリ・デュティユーの「時の大時計」という作品。小澤委嘱の作品に補筆したというもので、昨年の録音だそうです。内容は管弦楽にソプラノが乗ったもので、現代曲なので少しとっつきにくい部分もありますが、いわゆる「無調音楽」ではないのでよく聴くとその美しさがわかってきます。ただ初演ということもあってか、少し堅苦しい印象の演奏でもありますね。もちろん質はとても高いと思います。
 ボートラとして収録されている小澤・作曲者との対談(ラジオの企画らしいです)は、小澤の発言部分のみ英語なのでそこだけ聞き取れましたが、ご自身の歴史を振り返ったもので、概略は知っていますがご本人の口から聞けるので非常に興味深いものでした。
 もう1枚は、実は小澤ご本人は登場していないものです。「シェーンブルン宮殿 夏の夜のコンサート2010」というもので、タイトルどおりのロケーションのライヴ盤。今年の6月8日に行われたものだそうです。ウィーン・フィルとウィーン楽友協会合唱団が出演し、指揮はフランツ・ウェルザー=メスト。なぜこれが小澤絡みかといいますと、もともとこのコンサートは小澤にオファーがあったものが、ガン治療のために出演ができなかったというものだからです。実際の演奏には小澤は関係していませんが、選曲は小澤が行ったもの、つまり小澤からバトンを渡されたフランツ・ウェルザー=メストがプログラムごと引き継いだものなんだそうです。フランツ・ウェルザー=メストは小澤のポストであったウィーン国立歌劇場の総監督の座も引き継いだ人なので、その縁でこのコンサートも受け渡されたんでしょうね。
 この夜のコンサートのテーマは「月・惑星・星」。で、小澤が選んだ曲というのがふるっていて、なんとここであのウィーン・フィルが「スター・ウォーズ」を演奏しています。有名なメインタイトルの他にレイア姫のテーマと帝国のマーチ(「ダース・ベイダーのテーマ」として有名なアレ)まで演奏しています。これがなかなか受けていました。オリジナルはロンドン響ですが、それと比べるとどうなんだろうとちょっと下世話な気持ちで聴いたところ、意外や意外、弦はロンドン響(サントラ)の方がよかったです(僕の主観では、ですよ念のため)。僕は弦こそウィーン・フィルの方がいいのではと思っていたのに。それとは対照的に、管はこのウィーン・フィルの演奏の方がよかったです。かなりパワフルですがさすがに演奏は上々です。この曲を楽しみきれていないような弦に対して、管は思いっきり楽しそうです。音楽演奏はやっぱりそうじゃなきゃね。もちろん弦だって素晴らしいし、総合的な演奏内容はちゃんとしていたと思いますが。小澤だったらどういう解釈をしたでしょうね?
 上に書いたように「月・惑星・星」というテーマだった当夜は、ヨーゼフ・シュトラウスの「天体の音楽」、「ウィンザーの陽気な女房たち」からの「月野での合唱」(すばらしい演奏!)、お馴染みホルストの「火星」などが演奏されていましたが、そのなかに何故かリストの「ピアノ協奏曲第2番」「練習曲第2番」がありました。テーマと関係なし。なんですが、実はこのCDの中で、この2曲が出色の出来映えでした。特にピアノ協奏曲。見事のひとこと。ピアノを弾いているイエフィム・ブロンフマンというひと、僕はちゃんとは知らない人だったんですが、とてもいい演奏でした。テーマからはずれたプログラムが一番出来がいいなんてちょっと可笑しいですが、ライヴとはそういうものでしょう。これも小澤の選曲なのかなあ?ちょっと気になります。
 最初に書いたテレビの報道で、現在のご自身を「第2の人生」と語っておられた小澤征爾。病気のことは心配ですが、いつまでも元気で活躍してほしいものです。いつの日か小澤指揮の「シェーンブルン宮殿夏の夜のコンサート」の指揮台に小澤の姿を見たいものです。

シェーンブルン宮殿 夏の夜のコンサート2010

シェーンブルン宮殿 夏の夜のコンサート2010