コンサートレビュー トッド・ラングレン 10月15日 渋谷

 今日はコンサートに行ってきました。トッド・ラングレン。場所は渋谷のDuo Music Exchange
 トッドのコンサート、行くの何年ぶりでしょう?たぶん15年ぶりくらいになります。その間も何回か来日している彼ですが、なんとなくスケジュールが合わずに行けなかったんです。なので今回は久しぶりに観られる生のトッド。期待も膨らみます、といいたいところなのですが、僕には始まる前には少し不安がありました。それは今回のコンサートのコンセプトです。ツアーのタイトルが「Todd Rundgren's Johnson」。つまり今回は、あのロバート・ジョンソンの曲を大々的にフィーチャーした内容だというのです。別におかしなコンセプトではないですが、トッドがやるというのは少ししっくりきません。クラプトンじゃあるまいし。トッドもそれなりの年齢(還暦過ぎましたよね)で、変にレイドバックしていたら悲しいなあ、などとちょっと思いながら会場に入りました。今日はオールスタンディング、僕の整理番号は200番に近いほどだったんですが、入ってみたらかなり前の方に陣取れました。定刻10分過ぎくらいにバンドが登場しスタートです。今回はベースにあのカシム・サルトンがいます。
 オープニングは(たぶん)「I Believe I'll Dust My Broom」。すみません、ロバート・ジョンソンの曲ってちゃんと曲と名前が一致するものが少なくて、この程度のレポです。以下、基本的にはブルースが続きました。その意味ではタイトルどおりでした。ただ、実際の演奏は僕の予想を超えてハードなものでした。バンドは4人、ドラム、ベースにギター2本(うち1人がトッド)、キーボードも打ち込みもない、4ピースの完全生演奏でしたが、これが非常によかったのです。ブルース系の曲も「そのまんま」演奏するのではなくアレンジしてあって、これがとてもブルースロック寄りというか、ハードロックに近いようなセンスのものでした。各メンバーの演奏レベルもとても高く、「かつてのテンションを保てなくなったのでブルースに行きました」という感じは一切ない、切れ味のあるものでした。
 トッドはナチュラルのテレキャスとSGを持ち替えての演奏と歌。このギターとボーカルがよかった。予想外と言っては失礼かも知れませんが、声にも張りがあり声量もすごい。そしてなにより今回は、まさに全編に渡ってギターを弾きまくってくれました。こんなに長時間トッドのギターを聴いたこと、なかったかも知れません。そしてものすごく上手い。以前このブログでも書いたように、この人のギターの才能は過小評価されていると思っていましたが、今日はそれを目の前で証明してもらったような気がするほど、見事なギタリストぶりでした。ライヴハウスだったおかげでステージとの距離が近く、演奏する指の動きがよく見えたのも嬉しかった。ちなみにトッドのフィンガリングを観ていたら、ほとんど小指を使っていませんでした。
 ブルース系の曲が多かった今日のコンサートですが、本人の曲も何曲かやってくれました。意外だったのはあのナッズの「Open My Eyes」があったことです。イントロが始まったとき、一瞬「え、『I Can't Explain』?」と思っちゃいました(笑)。エンディングではトッドのウインドミル奏法も観られたので、ご本人もそう思っておられるのかな(笑)?もう1曲意外でありかつ嬉しかったのが「Unloved Children」。1989年の「Nearly Human」からの1曲。僕は名作だと信じているこのアルバムは、なぜか現在入手困難になっていて口惜しかったのですが、今日取り上げてくれたことで「トッドもあの作品を忘れていないんだ」と思えて嬉しかったです。
 ところでブルースを基本としたライヴ演奏というと、なんとなくアドリブ満載で全体の構成は単調と思うかも知れません。僕も始まる前はそのような気がして不安でした。ところがどっこい、実際の演奏や構成は、見事なほど細部にまでトッドの意識が行き届いていました。もちろん演奏にはインプロビゼーション満載でしたし、熱いものでしたが、決して行き当たりばったりのものではなく、念入りな打ち合わせやリハーサルをしたことがよくわかる「プロの仕事」でした。根っこの部分は愛するブルースですが、それをそのまんま提示するのではなく自分のスタイルでアレンジし、演奏を練り上げてステージを作り上げる、そういう感じ。まるでその場での思いつきのようにやっているんですが、全員の息がちゃんと合っているのでそうとわかります。「ブルース系の音楽が基本」「ステージの念入りな作りこみ」「本番では演奏者の技量を最大に発揮させる」「即興性も重要視する」というところで、僕はちょっとフランク・ザッパを思い出してしまいました。トッドがかなりの割合でSGを弾いてくれたので、なおさらそう思ったのかも知れません。
 本編最後は「Crossroad」これもオリジナルともクリームの有名なバージョンとも違うトッド流ハードロック。そしてアンコールは自作3曲。最後は(これまた意外な)「Boogies」。変拍子も入るし、けっこうトリッキーなナンバーなんですが、今回のトッドバンドはこれくらい朝飯前というか非常にアーシーな感じに仕上げてくれて、コンサートの最後を飾るに相応しい、緻密さと荒々しさの両方を感じさせてくれるものになっていました。それにしてもトッドのギターは魅力的でした。これならクロスロード・フェスに出たって受けますよ。ぜひ聴きたいな。ベテランがブルース方面の演奏をするとなると、みんな音楽の前でかしこまったようなものが多いんですが、トッドは逆に「ギターをたくさん弾くためのエクスキューズ」かと思うほど自由に振る舞っていて、それが却ってトッドのブルースに対する愛情や造詣が確かなものだということを教えてくれる、そんなコンサートでした。