コンサート評 バッド・カンパニー 2010年10月26日

 父親譲りの声量を持った息子さん、スティーヴ・ロジャースのオーガニックで、少しお父さんの音楽に通じるブリティッシュ・トラッド風の演奏がが終了後、ビートルズの「I Am The Walrus」に乗せてこの日の主役の登場。いきなり1曲目が「Can't Get Enough」でした。もちろん年齢層高めの観客は総立ち大合唱で応えます。そんな感じで、この日のバッド・カンパニーのコンサートは始まりました。以下、拙い感想を。
 今回のコンサート、直前でミックが(急病により)代役が立てられ、他界したボズも含めて4人中2人がいない状態での再結成ライヴになりました。その点は非常に残念でした。最初に書いてしまうと、演奏そのものは破綻なく、むしろ充実していたといっていいものでした。ただ、あのザ・フーのような「演奏者全員の息がピッタリ合っていて、まさにチームというべき」というところまでは行かなかったという感じ。当然のことだしそれをもってこの日のコンサートを批判するには当たりませんが、正直な感想です。
 となると、焦点はオリジナルの2人、ポールとサイモン(カーク、以下カークでいきますね)のコンディションと演奏です。で、これはもう、期待し願ったものが与えられたとしかいいようのないほどのものでした。カークのドラムもあのどっしりしつつ的確なリズムを再現していました。前日のコンサートをご覧になったブログ友のlazyさんが書かれていたように、演奏中にスタッフが流れる汗を拭いていたのも目撃しました。バスドラの迫力もよかったですが、スネアワークもシャープでした。
 そしてポール。僕は過去2回彼の歌唱を生で聴いています(うち1回はあのクイーンとのライヴ)。そのどちらでもものすごい実力に舌を巻いたんですが、この日はそれ以上。今回の再結成はライヴ盤が出ていてそれはもう聴いていたんですが、それよりも声が出ていて歌も見事。本当よ。こんなことってあるのか?ステージアクションも切れがあるし、観ていて聴いていて信じられないほど。再結成ライヴにありがちな「想像力や愛情でカバーしつつ」観る必要まったくなし。マイクスタンドを振り回したり投げ上げる、あの「大見得」も健在でした。
 コンサート自体は代表的な曲が繰り出してくるという王道進行でした。音量が絶妙で、ロック的な迫力があると同時に楽器個々のニュアンスも伝わってきました。個人的に嬉しかったのは「Run With The Pack」を演奏してくれたこと。ポールがピアノの前に行ったので「お、『Bad Company』かな?」と思ったら…!。あまり話題にならない同アルバムですが、かっこいい名盤名曲ですよね。最初の二行の歌詞もそうですが、どこかビートルズを連想させるテイストも含めて大好きだったので、この日聴けてラッキーでした。
 ラッキ−と言えば…。もうあちこちで話題になっていますが、この日のプログラムは非常に特色あるものでした。まずはポールがギター弾き語りで「夜明けの刑事」を歌ったこと(!)。渋谷陽一さんのブログでは「観客はなにかわからず静かだった」というようなことを書いていましたが、そんなことなかったですよ。あくまで相対的にそういう感じだっただけです。大受けでした。僕は「こんな曲まで知ってるのか?濃いお客さんだなあ」と感心したものです。
 そしてもうひとつが、ビートルズメドレー。前例があるらしいですが僕はまったく知らなかったのでびっくり&大喜び。曲は「Rock'n'Roll Fantasy」の中で。曲の途中に挟むように「Ticket To Ride」と「I Feel Fine」をやってくれました。これまた観客のみなさん大合唱で「みんな知ってる」という感じでしたね(笑)。ポールも余裕たっぷりの歌唱で、バンドも楽しそうでした。
 そして、この日のコンサートは最後の最後に、最大の(まさしく)サプライズが待っていました。これまたもうネットでは話題になっていますが、千秋楽だったこの日、彼らは都合3回のアンコールに応えてくれて、しかもそのとき、フリーの「Be My Friend」を演奏してくれたのです!ポールが「フリーの曲をやるよ」と話した瞬間の会場のどよめきはすごかったです。しかも、「All Right Now」ではなく「Be My Firend」というところが泣かせますね。実はこの日最後の最後は「Stormy Monday」で締めたんですが、「Be My Friend」といい「Stormy Monday」といい、彼らのルーツがよくわかる思いがしました。
 前回のエントリに書いたとおり、この週の僕はけっこう忙しく、ちらっと「ミック来ないなら払い戻しも…」と頭をよぎりました。実際翌日の体調はヘロヘロで、今もちょっと調子よくありません。でもまったく後悔なしです。行ってよかった。それは「ビートルズ聴けたから」「フリー聴けたから」ということももちろんありますが、それ以上に「バッド・カンパニーが素晴らしい演奏を聴かせてくれたから、ポールとカークの健在ぶりを体験できた」からです。それにしてもポールの実力は凄まじかったです。この人は絶頂期のまま時間が止まっているのじゃないかしら?本当にそんな感じ。最高の一夜でした。「また来るよ」の声を信じて、これからも彼らの音楽を愛していきたいです。
 追記、コンサートでは「Seagull」も歌ってくれました。ポールのギター弾き語りでしたが、これが息子さんの音楽と一脈通じるということに気づきました。そしてそれは、フリーの「イギリスのトラッドに通じるセンス」にも通じると感じました。今までバドカンの音楽自体にそういう部分を感じる事が少なかった僕ですが、やっぱり脈々とつながる伝統というべきものがあるんですね。