追悼 ジョージ・シアリング

 今日の新聞にジョージ・シアリングの訃報が載っていました。91歳とのこと。
 僕は数枚この人のアルバムを持っていますが、どのアルバムもとても甘く美しいです。レパートリーも音楽のスタイルも古き良きジャズですが、スイングともモダンともちょっとずつ違う(と、僕には感じられます)上品さが感じられました。数枚ですが所有している、1950年代にキャピトルなどから出ていたムードミュージックというかストリング・オーケストラものに通じるような感じ。曲によっては軽快にスイングするしピアノもテクニカル、それなりにアップテンポのものもあるんですが、最終的に心に刻まれるのは一種の「品」でした。たくさんは持っていないアーティストでしたが、折に触れて聴くととても暖かい気持ちになったものです。
 そしてさらに、この人はビートルズと密かな繋がりがありました。ひとつは少しトリビアルなものですが、この人のアルバムがビートルズ映画に登場するというものです。あの「A Hard Day’s Night」の前半。列車を降りてホテルに着いたところ。部屋の中にはビートルズの4人の他に「ポールのおじいさん」がいますが、そのおじいさんが持っているのがジョージ・シアリングのアルバム「White Satin」でした。もちろん具体的な情報を知ったのは初鑑賞からずいぶん経ってからですが(僕がジョージ・シアリングの名を知ったのは、このトリビアからでした)。
 もうひとつはもっと本質的なものです。初期ビートルズサウンドとは切っても切れないギター、リッケンバッカー。最初にリッケンを手にしたのはジョン・レノンですが、ジョンがそれを(ハンブルグで)入手したときの動機が、このジョージ・シアリングクインテットのギタリスト(ジーン“トゥーツ”シールマンス)がリッケンバッカーを弾いているのを聴いて気に入ったからだというのです。この事実からシアリングのイギリスでの人気ぶりやジョンの音楽アンテナの広さなども窺えますが、結果的にこの楽器選択が後の音楽シーンでとても大きな影響を持つことになることを考えると、奇遇とはまさにこういうことをいうのだなと思います。もしかしたら映画の中にジャケットが登場したのはジョンの思い出から来ているのかも知れません(普通に考えたらシアリングの音楽はポール好みのような気がしますが)。
 短い訃報では亡くなった原因は病気だと書かれていましたが、数年前まで現役だったとのこと、そして年齢を考えたら大往生といっていいのかも知れません。ビートルズ絡みのことだけではなく、その「品性」を感じさせる音楽を僕たちに残してくれた老音楽家に、謹んでご冥福をお祈りします。

Black & White Satin

Black & White Satin