「華麗なるレース」だけ買いました

 数日前に行きつけのCDショップに、本当に久しぶりに行って来ました。店の入り口には営業時間短縮の告知、そして店内は少し薄暗くなっていました。南関東は節電中です。
 買ったのは2点。連日の地震報道にだんだん怯えるようになってしまった娘の心のケア(笑)のために「映画プリキュア・オールスターズDX2 希望の光レインボージュエルを守れ!」のDVD(ふう、タイトル全部書いたら一仕事した気分です)と、CDを1枚。クィーンの「A Day At The Race」のリミテッド・エディション。クィーンは今年結成40年だそうで、いろいろある記念企画の目玉。レコード会社もEMIからユニバーサルに移ってのリリースです。今回は初期の5枚が出ていますが、震災のために大人買いはせず、1枚分以外は「買ったつもり寄付」させていただきました。
 誰もが認める大傑作「A Night At The Opera」ではなく「Race」にした理由は単純。これは僕が生まれて初めて買ったクィーンのアルバムだからです。実際僕は「Opera」よりもこちらの方をよく聴きました。クィーンはこの後の「News Of The World」から音楽性が変わった(そしてそれが「The Game」ではっきり成果になる)とよく言われますが(「News」録音中のスタジオでピストルズのメンツとすれ違っていたとか、有名なエピソードがありますね)、「Race」はそれまで大作主義的作り込みから一歩を踏み出した、本当の意味での「分水嶺」的アルバムだと思っています。
 曲の内容や音作り(クィーンの作品中、もっとも音が分厚いです)は前作までの延長にありますが、それを組曲などの形にせず、ごく普通に「曲が並んでいる」アルバムに仕上げています(それにしても一般的な意味ではかなりの詰め込みぶりですが)。なによりも曲の出来がいいです。有名ではない「Long Away」や「You And I」(ジョンの名曲!)、ロジャーの才能が開花した「Drowse」など、普通のバンドなら代表曲になっていたであろう曲が多いです。今回のリマスター、まだ数回しか聴いていないのですが、リマスターされた音は確実に良くなっています。でも無理やり高域低域を強調したものではなく、全体がブラッシュアップされた感じ。ビートルズのリマスターに近い印象です。もともと持っていた音の「良さ」と「厚み」がよりわかりやすくなった感じ。特にボーカルとドラム、そしてピアノはいいです。
 ところで今回の注目であるリミテッド・エディションのディスク2について。1はいわゆる「カラオケ」。フレディなりきりで楽しみましょう。真面目に書くと、ボーカルがないので演奏がじっくり聴けます。ドラムの定位(の変化)が気持ちいい。2はライヴですが以前出ていた「On Fire」と同じテイク。これもすごいです。4は「Top Of The Pops」に出演した時のもの。シンプルだけど楽しい。最初に聴いた時は「スタジオ録音のカラオケをバックに歌っているだけかな?」と思ったんですが、何回か聴いてみたら、どうもちゃんとライヴで演奏しているようでした。スタジオ・テイクではマイク・ストーンが歌っていたパートはロジャーが歌っています。5はHDミックスと題されたもので、今回のリマスターとも違うミックス。解説によると2005年に長野で開催されたスペシャルオリンピックのために行われたミックスらしいです。特にものすごく違うというものではないですが、コーラスのエコーが控えめで人の声がすっきり聴こえます。そしてアルバムテイクにあるエンディングのループ音がありません。
 そして!僕にとって今回のハイライトが3。「You Take My Breath Away」のライヴテイク。あの伝説の1976ハイドパークでの収録。このコンサートの時点では「Race」は未発表のはずですから、新曲として演奏したようです(実際、今回の収録テイクには、「もうすぐ出るアルバムからの新曲だよ」というフレディのMCが入っています)。もともとこの曲は大好きで、個人的にクィーンの傑作のひとつだと思っていますが、このテイクも素晴らしいです。スタジオでは曲を飾っている多重録音コーラスのない、フレディのピアノ弾き語りですがもうとてつもなく美しい。曲の本質である一種の「儚さ」をスタジオ以上にリアルに感じます。なにより書くべきはフレディの歌声。この美しく伸びやかで表現力に富んだ声は、クィーンの他のライヴでも聴けないものです。このころのフレディがどれほどの実力と美しさを持っていたかよくわかる感動的な歌唱、よくぞここに収録してくれました。このアルバム、定価は2800円ですが、僕はこの1曲で3000円分くらいの価値はあると思っています(つまり、僕はアルバム買って200円得をしたようなものですね)。
 このアルバムがこれだけいいということは、他の4枚もきっとすごいということなんでしょうね。期待してしまいます。でも今は、それはちょっとお預け。上に書いたように、あとの4枚を買う分は寄付に回しました。
 アルバムには今回のキャンペーンでリリースされる書籍などの告知リーフレットがありました。そのなかに「クイーン&MUSIC LIFE展〜クイーンが愛した日本〜」の告知もありました。会場は東武百貨店(池袋)、期間は4月28日から5月5日。今、大変なことになっている被災地はそのころには立ち直っているでしょうか?「クイーンが愛した」この国はどのようになっているでしょうか?少しでもいい方向に向かえるよう、僕も自分の生きる場所で最善を尽くしたいと思います。「何も感じられず、リズムもビートも失われてしまった/でも大丈夫、決して諦めたりしない/いつの日かこの牢獄を出て自由になるんだ!」(「Somebody To Love」)

華麗なるレース(リミテッド・エディション)

華麗なるレース(リミテッド・エディション)