キースが奏でる祈りの曲

 毎年慌ただしい年度末ですが(社会人の方はみなさんそうですよね)今年はあの大震災の影響が(間接的に)あって、輪をかけて慌ただしかった、いや今も現在進行形でバタバタしています。が、僕の回りは少しずつ日常に戻ってきました。計画停電が見送られることが多くなったことが大きいかも知れません。僕たちのように直接被災しなかった人間にとって、どのように日常を維持し、どのようになにかを耐えるべきかは悩ましいところですが、配慮なしのばか騒ぎは控えつつ、自分たちの立場で社会を維持していきたいと思っています。
 今回の震災では、世界中のミュージシャンが日本に対してのメッセージやチャリティの立ち上げをしてくれています。音楽ファンとして本当に嬉しく思っています。すでにニュースでも取り上げられている「Songs For Japan」(入手しました。「Imagine」に金払うの何回目だろ?)などもあり、現役アーチストも続々声を上げていますが、今日はあまり目立たないこの人の話題。その人の名はキース・エマーソン
 この人は震災後、日本に向けたメッセージを発表していますが、なんとそこに自作のピアノ曲と映像をつけ公開しています。タイトルは「The Land Of Rising Sun」。「東日本大震災で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。」というテロップ、そしてキースのメッセージが続きます。聴こえるのは重く美しいソロピアノの音色。もちろん歌詞はありませんが、言葉などなくても鎮魂と祈りを強く感じさせるような曲調。画面には荒いタッチの手書きスコアが映し出されます。
 全編に渡ってキースの、心のこもったメッセージが伝わってくるものですが、驚くべきはこの作品を発表したタイミング。最後に出てくるクレジットに拠ると、「英国時間の3月11日午前10時に録音された」とのこと。イギリスと日本では9時間の時差があるので(日本の方が早い)、震災発生後4時間ほどで作曲演奏録音をしたということになります。この段階で「東日本大震災」という言葉を使っていることも含めて、驚くべきことだと思います。
 今回の震災に限らず、被災者救済、復興支援となればまずは経済的、物的な手助けがメインになるのは当然です。現役アーチストたちのアクションもそこに集中しています。が、いわゆる「チャリティ呼びかけ」「寄付」という形ではなく「自分にできることは音楽を届けることです」と明言し、実際に曲を書き公開する、これもまた評価されるべきものだと思います。プログレはロック論壇では冷遇されていて、なかなか大きな話題にならないものですが、優れた音楽家が音楽をもって遠い国から声を上げてくれた、そのことに僕は心から感謝したいと思います。
 ありがとうキース。お気持ち感謝いたします。動画のラスト、燃え上がるコンビナートの炎が朝日の画像に変わっていくのと同じように、僕たちの国もきっと再び立ち上がります。そのためにがんばります。そう遠くないいつか、復興なった日本で開催されるだろうあなたのコンサート、僕は必ず観に行きますよ。本当にありがとうございました。

 追記、動画の最後に出てくるクレジットでわざわざ「ヴィンテージ・ベヒシュタインを弾きました」と書いてあるところ、思わずニヤッとしちゃいました。本当に、この人骨の髄まで「音楽家」なんだなあ。