「ぴあ」休刊の報にちょっと思い出ばなし

 「ぴあ」(首都圏版)が休刊になるそうですね。なんとなく時間の問題だったような気もしていましたが、現実にニュースになると僕くらいの世代にとっては感慨深いですね。僕のいわゆる青春時代(笑)は「ぴあ」の存在抜きには書かせませんでしたから。
 僕が初めて「ぴあ」を買ったのは忘れもしない1979年7月だったか6月だったか(どっちだったっけ?忘れてるじゃんw?)。高校1年の夏休み前でした。誰でもそうでしょうけれど、中学生と高校生では行動範囲も交遊範囲も大きく変わります。僕もそんなひとりで、今まで行きたくても行けなかった(どうやって行けばいいかもわからなかった)場所や催しに出かけるようになりました。以前にも書きましたが、僕が初めてロックのコンサートに行ったのも高校1年のときでした。で、そういう日々のなかで映画を観に行くとき、「どこでなにをやっているか」を知るために「ぴあ」は非常にありがたい情報源でした。上に書いた「初めて買った」ときも、知りたかったのは「ジーザス・クライスト・スーパースター」の上映館でした。三鷹でやっているのを知って夏休みの初日に出かけたのも憶えています(ちなみに、このときの併映作品が「Tommy」でした。何の予備知識もなく観たこの映画がきっかけで僕はザ・フーのファンになりました)。その後も、映画や展覧会、コンサート情報はほぼすべて「ぴあ」から得ていました。
 「ぴあ」はその情報ツールとしての機能の高さから「雑誌とはいえない」(要するに、編集者の「思い」のない、機械的なもの)というような批判をされることが多かったと記憶しています(いや、多かったかどうかは不明ですがいくつかの雑誌で「ぴあ」批判を読んだことがあります)。でも僕の印象は逆でした。当時は名画座がものすごくたくさんあって(若い皆さんはきっと一度はお父さんお母さんや会社の先輩からそういうこと聞いたことがあるでしょ)、本当に様々な映画が毎日上映されていましたが、その情報を網羅しつつ、タイトルの脇にいろいろなマーク(今でいうとアイコンかな)がついていて「感動の涙を流したい」、「思いきり笑いたい」など、映画の内容を簡単に理解できるようになっていました。今のようになんでも検索一発ではわからなかった時代、とてもありがたかったです(繰り返しますが、30年くらい前の首都圏にはとにかくたくさんの映画館があったのです。そのすべての上映作品に的確なアイコンをつけるだけでもそうとうな労力だと思います)。新作映画や催しの紹介も、短いながらわかりやすい文章で、ダラダラ執筆者の蘊蓄が続くだけの紹介文よりずっと役に立ちました(そして、記憶が確かなら、新作映画の紹介記事が複数回掲載される場合、紹介文は毎回違っていたはずです)。
 そして僕が忘れられないのは年に1回やっていた読者投票「ぴあテン」でした。映画、音楽など数ジャンルの「前年上映上演開催されたものの人気投票」をやっていたのです。すべての映画やコンサート、展覧会を見ることなどできない貧乏高校生にとって、そういうものから「今はこういうものが支持されているんだ」とわかるものでした。そしてそれ以上に、併設で行われていた「もあテン」(だっけ?ちょっと名前の記憶怪しい)が僕には重要でした。これは例えば映画なら「前年に公開されたかどうかとは無関係に、もう一度観たいものを投票する」いわば「オールタイム人気投票」のようなものでした。冗談ではなく、僕はここにランキングされた作品を追っかけて名画座に行きました。上位の作品は名作ばかりでしたから、本当に勉強になりました。ちなみにこの投票では、長らく「2001年宇宙の旅」が1位を占めていました(記憶違いがあったらごめんなさい)。
 僕のような読み方をした読者が多かったかどうかは不明ですが、「ぴあ」を窓として、新しい世界に飛び出していった人はきっと多かったに違いないと思います。くどいようですが当時は「検索」なんてどこにもなかった時代です。世間知らずで自分の町から出たこともないような(比喩ですよ、念のため)高校生が、本当に自分の好きなものを探すために外に出る、そのときのとても重要な「相棒」だったと思います。
 最初に書いたように、あのころ「ぴあ」にあった情報のほとんどは、今はネットにあり、すぐに探し出せる時代です。休刊の報に接して感慨に浸ることはあっても「残念」とは思いません。時代の流れとはこういうものなのでしょう。僕ももう買わなくなって10年以上、下手をすると20年近くなるかも知れません(最近ムック形式の「プリキュアぴあ」買ったのは誰にもヒミツだ!)。それでも僕は「ぴあ」に大変な恩があるのだと思っています。「ぴあ」さま、お疲れさまでした。あのとき、何も知らず行動力もない高校生の手を引っ張ってくださったこと、忘れません。本当に楽しくてドキドキする日々でした。ありがとうございました。