アコースティック・ギター・マガジン49号で木を改めて愛する

 しばらく前に楽器店で試奏をさせてもらったのをきっかけに、アコースティック・ギターに興味が湧いてきました。思い返してみたら、僕は今までごく普通のアコースティック・ギター(いわゆるフォークギターね)は所有したことがありませんでした。妹が安物のフォークギターを持っていたので弾いたことがあった程度です。それが、エントリークラスのものとはいえマーティンのギターを弾かせてもらったら思いのほかいい音色と響きで、ちょっと気になり出したのです。
 で、自分で少しだけ調べ始めて、その奥深さの一端に触れるようになったところ、タイミングよくある雑誌に巡り会いました。 「アコースティック・ギター・マガジン 第49号」(リットー・ミュージック)です。なんとこの号、「アコギ・ライフを100倍楽しむための木材照って地ガイド」という特集を打ち、大々的にギター材を解説、考察しているのです。
 ギター材に使用される様々な木について、板の写真入りでその生息地、特徴、現在の(生育、供給)状況などを解説しています。これだけでも音楽雑誌としてはかなりユニークなものになっていますが、取材記事も非常に面白いものでした。
 基本的にギターは「いい音響(音色)のためにはある特定の材が不可欠〜だがそれらは(主に乱伐などによる個体数の減少を原因として)供給がストップしている〜結果、その材を使用した楽器は高騰している・演奏者の評価も高い」と図式化されます。通常の音楽雑誌などではここまでの話しで「1969年以前のマーティンの音色は最高!」「最近は大量生産で楽器の質は落ちた」というあたりの締めなんですが、この特集はさらに踏み込んで、最高だという材が供給されないことの社会的意味(種の保存、持続可能な社会の運営)を説明し、代替材や合板の使用、新たな楽器製作の技術の向上などにより問題の克服可能性を展望しています。京大教授(木材の研究者)やヤマハのA.R.E技術(新品の材を、水、熱、圧力などでヴィンテージのような響きにする技術)への取材、合板についての(簡単ではありますが)ユーザーの先入観を覆すような記事も面白かったです。
 個人的には海外記事の翻訳ですが「トーンウッドの将来」という記事が非常に興味深かったです。「僕らの世代で長年愛用されてきた材のいくつかは消滅するだろう」というボブ・タイラー(タイラー・ギターズ)の言葉も衝撃的な記事ですが、伝統的な材の価値を最大限に認めつつ、それらが入手できない時代を、代替材の発見、制作技術の発展などにより乗り越えていこうという動きを解説しています。僕にとって新鮮だったのは、そこに絶えず社会的視点があったこと。漠然とは頭の中にあったものをはっきりと知ることができました。ただ、日本を代表するギター制作者の鼎談や(上記の)京大教授のインタビューなどを読むと、やはり伝統的木材の価値は絶大なものがあるんだなあと実感でき、特集記事のあちこちにある非常に美しい木材の写真(56ページから始まるギターの写真など、セクシーといってもいいほど美しい。そしてギターになる前の木材の写真さえ、本当に魅力的)を観るにつけても、簡単に気持ちを切り替えられるものではないなあと、変な感心をしていまいます。
 ただ、「伝統的な材でなければ最高の音は実現しない、それは動かし難い真実だ」ということはないと、それは理解できました。音楽や音は最終的には主観の領域で受け入れられるものですから、絶対的な結論は出ませんが、そうであればこそ、単純な素材至上主義、現代の否定だけではなく、未来への希望もあり得るのだと思わせてくれる内容の特集記事でした。音楽の話題としてはかなり異色なものですが、楽器、特にアコースティック・ギターがお好きな方は読んで損はしません。ぜひ読んでみてください。今以上に楽器の材に親しみが持てます。そしてもしギターをお持ちの方が読んだら、ご自分のギターに今以上の愛着を持てるようになること請け合いです。