新譜評ルー・リード&メタリカ「Lulu」

 ルー・リードメタリカの競演盤「Lulu」、やっぱり賛否両論ですね。アマゾンのレビュー読んでみたらほぼ最低といっていい評価でした。「ルーのファンです」という方の評価も微妙なもので、みんな戸惑っている様子ですね。某SNSメタリカコミュも覗いたんですがメタメタでした。そうなるのかな?うーん。
 僕の感想は「これは名作だ」です。間違いないでしょう。10年後は今とまったく違う評価に落ち着いているでしょう。
 このアルバムが現在これほど低い第一印象を持たれているのは、内容のヘヴィさもさることながら、主にメタリカファンの方からの「メタリカらしくない」という感想がマジョリティになっているせいかと思います。芸術的な主導権は明らかにルーが握っています。約100年前のドイツ表現主義の戯曲をもとにしたというコンセプトはいかにも彼らしいですね。そういう部分も含めて、ルーの側から考えるとわりとわかりやすいです。今回は詩の質が非常に高く、この強烈な演奏に見合うものになっています。いや、逆か。これだけコンセプト(詩も、ジャケットなどのビジュアルも含めて)を支えるには、メタリカ級の演奏が必要だったのかも知れません。今回の競演はルーの側から提案されたということですが、そのあたりにもルーの意気込みが窺われます。
 曲としては「The View」「Mistress Dread」「Dragon」あたりがルーとメタリカのバランスがとれたものになっていて聴きやすいけれど、僕が気になったのはラストの「Junior Dad」。20分近くになる非常にヘヴィなナンバーで、後半はずうっとワンノートのストリング(ドローンのよう)が響き続けるというもの。どちらかといえばまさしくルーの世界ですが、そういう区分けは別にして、非常に印象深い幕切れ、もっといえば不気味な余韻を残します。この世界は単なる予定調和や「折衷案」では成立しなかったものでしょう。これこそ「化学反応」、ルーもメタリカも本気だということがジワジワ伝わってきます。
 ちょっと気になるのは「この競演でメタリカはどんな影響を受けたのかな」という点。この作品を世に出したことで、ルー以上にメタリカの方が、自分たちの周囲に波紋を呼んだはずです。でも単なるバックバンドではなく両者の名義で出したということは、メタリカも「ルーと競演して音楽をクリエイトした」というところに自負があったからでしょう。それが今後の彼らの芸術にどのような作用を及ぼすか、とても興味があります。
 ライナーにもあるとおり、両者の競演は2009年の「ロックンロール・ホール・オブ・フェイム」記念コンサートでの出会いが発端になっています。このときの演奏は音源も映像もソフト化されていて僕も観たことがありますが(YouTubeでも観られるようです)、メタリカの紹介でルーがステージに上がったとき、歓声とともにかなりのブーイングも聞こえます。それが「Sweet Jane」終演後は歓声の方が圧倒的に大きくなっています。名前ではなく演奏と歌で観る者を納得させ喝采を受けていたルーの姿はとてもかっこ良かった。「Lulu」も今は「とりあえずブーイングを受けている」時期なのかも知れません。僕はきっといつかその声が喝采と賞賛に変わり、作品が真剣に語られる日が来ると信じています。

Lulu

Lulu