新譜評リンゴ・スター「RINGO 2012」

 リンゴ・スターのニューアルバム、入手しました。タイトルは「Ringo 2012」と実にシンプル。ジャケットも非常にシンプル。これが手抜きにも低予算にも感じられないところがここ数年のリンゴの凄いところです。毎回書いていますがここしばらくのリンゴはもはや「今が絶頂期」といっていい充実ぶり。前作「Y Not」も素晴らしい内容でしたが、さあ、今回はどうか?
 結論から書くと、今回も僕の期待は裏切られませんでした。1曲目、いきなり「Glass Onion」イントロドラムのサンプリングでビックリ!でしたが、そこから始まるアルバムは、タイトでソリッドな「今のリンゴ」でした。もちろんリンゴらしい親しみやすさを感じる曲もありましたし、ついに3曲目を数えるまでになったリヴァプールものも健在です(「In Liverpool」。ただし歌詞はちょっと二番煎じというか三番煎じな感じかな)。でも全体的には非常にソリッドな印象の音作りです。このエントリの冒頭に2回も「シンプル」と書きましたが、アレンジもある意味シンプルで、かつて「豪華なゲストがみんな熱演でカラフルな印象」だったのとは違い、とてもタイトにまとまっています。これはここ数作のリンゴの特徴でもありますが、前作「Y Not」と比べてもさらにタイト。変な表現ですが非常にギター・オリエンテッドなものになっています。そして特筆すべきはリンゴのドラムの存在感。いうまでもないでしょうが、どの曲でも最高に歌っています。
 ちょっと驚いたのは旧作「Ringo The 4th」収録の「Wings」が再録されていること。新録はレゲエ調になっていますが、僕にはけっこう意外な選曲でした。ちょっと捻くれたトロピカルなムードの「Samba」でリンゴと共作しているヴァン・ダイク・パークスの参加も嬉しいところ。ヴァン・ダイクもそうですが、前作に続いてエドガー・ウィンターが参加しているところも僕にはツボでした。そしてもちろんジョー・ウォルシュもいます。まさに画竜点睛的参加ですね。
 これまた意外な再録「Step Lightly」。これはオリジナルのちょっとルーズな雰囲気とは違ってヘヴィーに生まれ変わっていました。ビートルズ・ファンには説明不要ロニー・ドネガン「Rock Island The Line」のカヴァーは軽快な感じで、これは「In Liverpool」と同傾向のセンス(郷土愛や追憶を現したもの)かな?聴いていると楽しくなってきます。
 1曲めでは愛と平和の賛歌を歌ったリンゴはラストの曲で「慌ただしいときこそゆっくり行こうぜ」と歌っています。パブリックイメージのリンゴらしいといえますが、実際の彼の活動は楽隠居ともレイドバックとも無縁の「全開」ぶりです。この曲も「老い」というよりも「ロックミュージシャンらしい逆説」のようにさえ感じられます。
 それにしても凄いな、最近のリンゴは。前作のときもそう思いましたが、今回も、です。まさか70歳を越えたリンゴがここまで引き締まるとは。決して派手派手な作品ではありませんが、これも前作同様質の高い「ロックのアルバム」です。

リンゴ2012

リンゴ2012