新譜評 シガー・ロス「ヴァルタリ〜遠い鼓動」

 今年の夏フェス、ラインナップだけ見ると圧倒的にフジですね。いや、真面目な話し僕はそう思っています。ローゼズは出るしレディヘは出るし、僕の好きなアウル・シティも注目していた新人のハウラーも。個人的にはあのアット・ザ・ドライヴインが出るというのは幾重にも口惜しい。観たいなあ。でももうサマソニのチケットとってしまったし、中年の家庭持ちリーマンオヤジにとっては、フジはちょっと縁遠いんですよ。行くの大変だし、体力的に自信ないし。悲しいけれど諦めざるを得ません。
 そんなわけで、人生初めてのフェス参戦だというのに今イチ盛り上がれていないんですが、唯一(?)の救いはサマソニシガー・ロスが出てくれることですね。彼らは18日マウンテンのトリらしいので、マリンのトリであるグリーン・デイとかぶりそうですが、僕はもちろんシガー・ロスを選びます。すごく後ろ髪引かれますが。実をいうと僕、彼らのステージを観るのは今回が初めてになるのです。その意味でも楽しみです。
 僕は常々、シガー・ロスのような音楽が受け入れられたことって、音楽を聴く人たちのレベルの高さを現していると思っています。彼らの音楽が高く評価されたことは不思議でもなんでもないですが、大衆的な人気を獲得したということはそれだけ聴く耳を持った人たちが多く存在していたということで、そのへんに今の音楽ファンの質の高さがわかると思うのです。僕自身は数年前にあの「ロッキング・オン」の付録についていたサンプラーCDで初めて彼らを聴いて以来のファンですが、こんなに人気が出るとは正直思いませんでした。彼らの独特の音楽の本質は「肯定性」だと勝手に思っていますが、単なるヒーリング系ロックでもなく、プログレの現代的解釈でもなく、このような独自の音楽を奏でられること、そしてそれを愛するファンがたくさんいることこそ、音楽のマジックだと思います。
 そのシガー・ロス、来日を前にニューアルバムが出ました。タイトルは「Valtari」。ここしばらく、なんというか、彼らなりのメジャー路線を走っていたようだったのが、今回は非常に静謐な、「Takk」や「()」に通じるような音楽が流れてきました。ファンにとっては馴染みのある種類の音楽ですが、僕の印象では、ひとつひとつの音が以前よりも存在感を増したように思われます。なんだかんだいって、こういう音楽が彼らの真の姿ですね。そして、上述した彼らこその「肯定性」は健在です(これは前作でもそうでしたが)。これがある限り、僕は彼らのファンであり続け、彼らの音楽を愛していけます。
 このアルバムを聴くときに感じる独特の感情は、単なる心地よさではありません。そこにシガー・ロスの音楽の奥深さ、美しさがあります。このような音楽が今ここに存在することの奇跡。サマソニのステージで、その生の姿を体験できることはこのうえない喜びです。

Valtari

Valtari

 追記:今回もジャケットが非常にいいです。蜃気楼を撮影したような幻想的な写真ですが、これほど中身の音楽とフィットしたものはそうないでしょう。「残響」のジャケットも好きでしたが、それに勝るとも劣らない美しさです。