彼らは間違ってなんかいなかった。「RAM」ボックス

 買いました。ポール・マッカートニーの「RAM」。僕が買ったのは箱(スーパー・デラックス・エディション)の国内盤。
さて、内容はというと、本編(リマスター)1枚、当時のシングルや未発表曲を入れたボーナス盤、アルバムのモノミックス(リマスター)、あの「スリリントン」のリマスター盤、そして映像特典DVD。そしてものすごく手の込んだ付録がこれまた立派な箱に入っていました。
 付録類は非常に凝っていて、充実していました。ポートレイト写真やヒツジの写真集(笑)、ポール手描きの歌詞カード(このカードの再現度が半端じゃないです。このボックスのことをなにも知らない人を「ポールの直筆」と騙せそうな勢いです)、そして厚みのある写真集兼アーカイブ資料(これもものすごく資料的価値の高いものです。国内盤は日本語訳もついているので便利)。
 この付録類は、写真を除くとどれもすべて紙質まで吟味されたもので、「RAM」という作品のもつホームメイドテイスト、スコットランドの農場に居を構えていたときのムードが上手に反映されていて、手に取るのも楽しいものばかりです。まさに「手で触れることのできる『RAM』」という感じ。このボックス、購入前はさすがに「もう何枚も持っているのに、さらに1万円かあ」と迷っていたんですが、実物を触ったらそんな気持ちは飛んで行ってしまいました。
 肝心の音ですが、変に低域や高域を強調せず、もともとのアルバムが持っていたムードを損なわない丁寧なリマスターでした。もちろん音は良くなっていましたが、あの「なんとなく、1枚ヴェールで覆ったような感じ」は健在だったので驚き&嬉しかったです。モノバージョンは、当たり前ですがステレオバージョンとはミックスが違い、新鮮に聴こえました(ただ、個人的にはやはりステレオに愛着があるので、初期のビートルズなどのモノバージョンとは違って「バリエーションのひとつ」という受け取り方です)。
 ボーナス盤は当時のシングルや同時期レコーディングの未発表曲集。このディスクは非常に興味深いです。お馴染みの「Another Day」も入っていますが、このディスクの曲はすべて1970年秋から翌年春にかけての録音ばかり。本編「RAM」もいれて、ビートルズ解散からウィングス結成までのポールの歩みを辿ることができます。収録曲のいくつかはすでに聴いたこともありましたが、本編に続けてこのディスクを聴くと、当時のポールがとても上向きな気持ちで音楽に向かっていたのがわかります。
そして映像特典。この映像のマテリアルのほとんどが、当時のポール(とその家族)のプライベートショットです。これがとても素晴らしく感動的でした。どのショットにも、リンダがいます。そしてどのショットでもポールとリンダは幸せそうです。以前にも書きましたが、リンダの存命中、僕は彼女がバンドにいることに違和感を持っていました。でも今回の映像などを観るにつけ、彼女の存在の大きさ、彼女がいたからこその「その後」があり得たんだと、そう思います。本当に暖かい、いい映像です。
 そしてラストに収録されている「Eat At Home」での、最初期ウィングスの様子、これも本当にいい。メンバーとその家族も一緒に、ペイントされたオープンのダブルデッカーでツアーに出ているウィングスの様子(すでにボディには「WINGS OVER EUROPE」と書かれています)。これが実に楽しそう。「大スターのポール様とそのバックバンド」という感じは全くなく、ひとつのバンドだということが言葉ではなく物腰からわかります(それが長続きしなかったのが幾重にも残念)。ポールのファンとして、こんなに嬉しくて感動的な映像はありません。
 僕が初めてこのアルバムを聴いたのは高校3年のころ、大学受験の直前でした。今から30年以上前のことで、当時このアルバムの評判は決して高くはなかったと記憶していますが、僕にとっては「ギターもコーラスも多めで洗練されていないけれど、きれいなメロディも多いし、力の入ったアルバムじゃん」と思ったものでした。アルバムのラスト「The Back Seat Of My Car」、重厚なバラードですが、この曲の最後の部分、「We believe that we can’t be wrong」を聴くたびに僕は感動していました。「僕たちは間違ってなんかいない!」と何回も繰り返すポールのシャウトに、ポールの意地を強く感じたものです(個人的なことを書かせてもらうと、大学受験に失敗し浪人した僕は、不安定な日々のなか、このフレーズにずいぶん慰めてもらいました。)。
 そう、ポールは間違ってなんかいなかった。いや、言い直します。ポールとリンダは、です。偉大なバンドが終わりを告げ、次になにをするべきか。ポールが選んだのは「家族と、友人ともう一度旅に出るんだ」というものでした。そしてそれは結果として、1970年代のポールの活動を貫くものになりました。それが正しかったことは歴史が証明しています。僕にとってこの「箱」は、そのことを確認させてくれる、またとない貴重なプレゼントでした。

ラム スーパー・デラックス・エディション(完全生産限定盤)(DVD付)

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  • アーティスト: ポール&リンダ・マッカートニー
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 2012/05/30
  • メディア: CD
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