追悼 レイ・ブラッドベリ

 レイ・ブラッドベリが亡くなったという報道がありました。
 ブラッドベリの作品はどれも小説を読む、ストーリーを紐解く楽しさに満ちていました。名作「火星年代記」「たんぽぽのお酒」はもちろんですが、たくさんある短編こそ、「読む楽しさ」のエッセンスのようでした。そこには懐かしさ、哀しさがあり、そして確かに、「毒」「闇」がありました。僕はそのすべてに惹かれて、彼の作品を読み続けていました。
 忘れられない場面があります。「たんぽぽのお酒」に出てくる「おばあちゃんの台所」のエピソード。おもちゃ箱をひっくりかえしたようなおばあちゃんの台所が(ある人の、善意から出たいわば「おせっかい」によって)整理されてしまう。そのせいでおばあちゃんの料理から「魔法」が去ってしまい、かつてのようなおいしい料理が作れなくなってしまったとき、主人公のダグラス少年が夜中にこっそりその台所をもとのようにぐちゃぐちゃにしてしまう。再び「魔法」がよみがえり、夜中におばあちゃんが料理を作る音と匂いに下宿人たちが、家族が台所に降りて来て、みなでご馳走を食べ、幸せな眠りにつく、あのエピソード。
 僕にとってこれ以上の「創作」はありません。ここでは触れませんが、このエピソードは前に別のエピソードがあり、それで完全になります。お読みでない方のために伏せておきます。「ジュウナスさんの瓶」と書けば、お読みになったことがある方なら「ああ、あれか」と思い出すはずです。
 なんというか、こんなに暖かく、こんなに妖しく、こんなに感動的なものが生み出せるなんて。創造とはまさしくこういうものに使う呼称だと、初めて読んだときに強く思ったものです。それは今でも変わりません。今でも「1928年イリノイ州グリーンタウンにある、おばあちゃんの台所」は「一番行きたい場所」のひとつです。
 僕にとってブラッドベリは、「言葉による創造は、これほどに美しく奥深い」ことを教えてくれた偉大な恩人です。今日世界中にたくさんいるでしょう、僕の同じように悲しみを感じている人たちとともに、僕も一言の祈りを捧げます。ブラッドベリ様、ありがとうございました。どうぞゆっくりお休みください。

たんぽぽのお酒 (ベスト版文学のおくりもの)

たんぽぽのお酒 (ベスト版文学のおくりもの)