That’s Why God Made BB5

 ビーチ・ボーイズのニューアルバムが出ました。ブライアン・ウィルソンマイク・ラヴが和解し、アル・ジャーディンやブルース・ジョンストンも集い、いろいろな意味でリユニオンなアルバム。タイトルは「That’s Why God Made The Radio」。
 内容は、上記の情報から考えられる「最もいい予想」が当たったようなものと言えばご想像がつくと思います。演奏もしっかりしているし歌声やコーラスは力強い、そして曲の出来がいいです。プロダクションはブライアンのソロプロジェクトを基本としているようで、バックもワンダーミンツのメンバーなどが努めているようです。上質の音楽でブライアンの歌声が聴けるのは彼のソロアルバムで何回も経験しましたが、今回の目玉はといえばもちろん、そうした素晴らしい音楽に、ブライアンとマイクの声が同時に聴けることです。これは本当に感動的です。
 歌詞について書きますと、BB5らしい、いい意味でも悪い意味でもエヴァーグリーンなポップスと受け取れるものが多いですが、それがふとした言葉の言い回しなどで、ひっくり返って不気味な表情を見せる瞬間があります。わかりやすい例としては「The Private Life Of Bill And Sue」でしょうか。今となっては、それは現代的な意匠であると同時に、BB5が持つ個性だとわかるでしょう。彼らはただ明るいだけのポップスではない、と同時に、深読み専門のマニアの玩具でもない。この二律背反的な魅力こそが彼らの真骨頂であり、彼らの本質だと、今なら僕程度の人間でさえわかります。歌詞を読みながら聴くと、このアルバムの本当の質の高さが実感できます。
 アルバムの最後は「Summer’s Gone」。あまりにわかりやすいタイトルのこの曲。でもこの曲には、かつてのブライアンの作品(「’Til I Die」など)とは違い、ほのかな希望というか、達観したような心境を感じさせます。夏は去った。僕たちが心から愛するものの最盛期はすでに過去のものかも知れない。でもその価値は今も変わらずここにある。僕たちは夏が去ることは止められないけれど、それをずっと記憶にとどめ、愛し続けることができる。この曲を聴いているとそういう気持ちになってきます(この曲の共作者としてジョン・ボン・ジョヴィがクレジットされているのが、不思議に納得できるような歌詞です)。
 この作品は若さで作ることはできない。その意味では決して「現代的」ではありませんが、一方で(作り手)自分たちの年齢に相応しい力作だと思います。50年かかってやっとわかることが、ポップスの世界にも存在する。そういうことなのかも知れません。

ゴッド・メイド・ザ・ラジオ~神の創りしラジオ

ゴッド・メイド・ザ・ラジオ~神の創りしラジオ

 追記:一点だけ書かせてください。上記のようにアルバムは12曲目「Summer’s Gone 過ぎゆく夏」という曲で終わります。なのになのに、日本盤にはボーナストラックとして「Do It Again」の2012バージョンとかいうテイクが入っています。これが余韻ぶち壊しなんだ。2回目からは自力回避できるけれど、1回目に聴いたときは本当にがっかりしちゃった。デリカシーに欠けることです。これから聴くみなさん、どうぞご注意くださいね。