ロンドン五輪閉会式雑感

 前回ロンドンオリンピックの開会式について書いたのに、もう閉会式になってしまいました。ふう。柔道が不振だったりメダル期待の選手が思うように活躍できなかったり、いろいろありましたが、僕はがっかりしたり息をのんだりしながら、基本的には楽しめました。
 日本の選手にはもちろん、優れた外国人選手の活躍もよかったです。水着のようなウエアばかりのなか、まったく肌を露出しない出で立ちで参加したサウジやパレスチナの女性選手。娘のドレミから「暑くないの?どうしてあの人だけ違う服を着ているの?」という質問に、子どもに偏見や先入観を与えずに説明することに苦労してしまいました。僕もさすがにこの歳で無邪気に「五輪の精神」を信じているわけではないですが、それでもそこに、聖火のように理想を掲げ続けることは尊重すべきことだと思います。今回の五輪では「すべての国と地域から女性選手が来てくれた」ということがアピールされていました。開会式ではかつてイギリスで起こった女性参政権運動が、けっこう大きく取り上げられていました。これがメッセージのひとつなのでしょうね。
 で、話は変わって音楽です(笑)。閉会式。開会式でも僕くらいの年代の音楽ファンにとってはとても楽しいものでしたが、はっきりと「A Symphony Of British Music」と銘打たれた閉会式には期待しちゃいます。で、どうであったか。
 (その前にちょっとひとこと。今回のNHK中継の、音楽が演奏されているのにずっとアナウンサーがしゃべっているという件。僕も憤慨しました。五輪の閉会式中継は、だいたいいつもこんな感じといえばそういうもので、視聴者すべて音楽が目当てで見ている訳ではないよと言われればそのとおりで、その意味で期待しすぎなのかも知れなかったですが、それでも音楽が主役だよという触れ込みだった今回くらい、なにか気を使ってもらいたかったというのが本音です。これはNHKのせいではないでしょうが、映像は鮮明なのに音楽がオフ気味なのも不思議でした)
 もうね、これは「すごかった」の一言です。開会式同様「Baba O’riley」でカウントダウン、そして以下
 エミリー・サンデーのしっとりした歌声
 ビートルズ「Because」のアカペラコーラス
 エルガーをちょっと挟んで
 マッドネスにペット・ショップ・ボーイズにワン・ダイレクション(10歳以上年下の義妹はここに強く反応していました)
 随所に入る「A Day In The Life」オケ上昇音のジングル
 まさかのレイ・デイヴィス、まさかの「Waterloo Sunset」(でもピッタリの選曲だね)
 会場中心にピラミッド(?)をつくる場面で会場に流れたケイト・ブッシュ「Running Up That Hill」
 ボランティアを讃える場面で流れた「Here Comes The Sun」(感動しました!)
 「Bohemian Rhapsody」に導かれて歌われる「Imagine」とジョンの横顔(ジャケットネタですね)
 ちょっと意外だったジョージ・マイケル(しかも2曲熱唱。上記の義妹はここにも反応していました。年代によってツボがあるんですね)
 一瞬鳥肌立ったら本家ではなくカイザー・チーフスの演奏する「Pinball Wizard」でもこれ、素晴らしい演奏でした。開会式でのアークティック・モンキーズ「Come Together」もそうでしたが、現役のアーチストによる昔の名曲っていいですね。
 そしてかなりの時間を割いて紹介されたデヴィッド・ボウイ、でもご本人の登場はなし。開会式でもそうでした。ちょっと不安になるような噂を聞いたこともありますが、元気な姿を拝見したかったです。ところでこのとき流れた曲は「Fashion」会場に鳴り響いたギターはロバート・フリップ。後述のフロイドも含めてまたもや「プログレ大勝利」(笑)。
 開会式では映像で登場したアニー・レノックスが登場。すごいセットそして熱唱、かっこ良かったです。
 で、問題の「Wish You Were Here」。エド・シーランがしっとりと「曲本来の魅力を強調するような歌唱」をしている間、アナウンサーがずうっと(アニーのときからずうっと)関係ないおしゃべり(いや、五輪の話しをしていたんですが、音楽とは無関係ということね)。実はこのとき、バックバンドにはマイク・ラザフォードやニック・メイスンもいたんですよ。でもまったく紹介されずじまい。演奏中スーツ姿の男性が綱渡りをしていて、曲の最後、待っていたスーツ姿の人形と握手するとその人形が燃え上がるという「炎」アルバムジャケットを題材にした演出もあったんですが、そちらもスルー。ご存じなかったのかな、アナウンサー氏?
 サイケなバスが登場し(「マジカル・ミステリー・ツアー」)、「I Am The Walrus」!歌っているラッセル・ブランドというひと、僕は知らなかったんですが、イギリスでは有名なコメディアンとのこと。会場大合唱になっていてファンとしては嬉しい。それにしても「You let your knickers down」の歌詞を再現しちゃうなんてすごい!
 続いてファット・ボーイ・スリム。DJプレイはこういう大会場ではちょっと降りだったかな?動く姿が見られて僕は嬉しかったです。
 ジェシ・Jあたりになると僕も「知っている」程度になっちゃいますが、この閉会式、往年の名曲、スターと現役のアーチストのブレンドが絶妙です。
 スパイスはまあ、お約束かな?僕は特別なファンではないのでそれほどの感慨はなかったんですが、義妹は食いついていましたから、やっぱり僕は年代的に外れてしまうんでしょうね。
 ビーディ・アイの紹介で「2009年にロンドンで結成された」はないでしょうNHKさん(苦笑)?まあ、間違っていないですが。
 あああ!エリック・アイドルだああ!曲はもちろん「Always Look On The Bright Side Of Life」これこそ真の五輪賛歌だ!会場みんなで唱和していて、見ていて涙が出てきましたよ。五輪のセレモニーなのに尼さんがユニオンジャック柄の下着を見せながら踊るなんて、まさに「モンティ・パイソン」の面目躍如ですね。
 透明ピアノで登場のミューズ。曲は「Survival」。すごい熱演なのにここでもアナウンサーしゃべりっぱなしでBGM扱い。本当にアーチストがかわいそう。
 映像で登場のフレディ・マーキュリー「レロレロ」コール&レスポンス。この映像、あのウエンブリー・スタジアムでのものではなかったかな?このコール&レスポンス、最後にぼそっと「Fuck you」って呟くんですが、さすがにそこは編集されていたかな?ちょっと聴こえたような気もしますが(笑)。そしてクィーン。すっかりお年を召した感じのブライアンでしたが、いつも最高水準の演奏。曲はもちろん、世界一有名なロック「We Will Rock You」。
 テイク・ザットもどちらかというと守備範囲外(オヤジなもので)。でもみんな上手いなあ。セレモニーに沿った選曲や演奏で、しっかり自分のこともアピールしている。
 そして、またもや問題のザ・フー。もうねファンとしては言いたいことが山ほどありますよ。画面はちゃんとバンドを映さないし、音声は花火の音ばかり拾うし、途中で終わっちゃうし。でも演奏はよかった。「Baba」の昼間部、ピートではなくロジャーが歌っていたのがちょっと不安ですが、あとは「いつも」の彼ら。ベースはピノではなかった模様。ドラムはもちろんザック・スターキー。放送ラストは「My Generation」。開会式でも流れましたが、よくこの曲を使用させますよね。すごい国だイギリスって。
 長々すみません。見ながらとったメモを元に書いたんですが、見落としなども多いと思います。開会式閉会式はもちろんですが、競技中の会場でもロックは大々的にフィーチャーされていました。今回の五輪を見ていて思ったんですが、イギリスは自分たちが世界に対してアドバンテージを持っているコンテンツがなにであり、なにを見せ、聴かせれば満足してもらえるかを熟知していました。そしてそれを、非常に効果的に紹介してくれました。まあビートルズとかクィーンはフィーチャーされるだろうなあと想像していましたが、それはあくまで「五輪」の(ちょっとお堅い)フォーマットのなかでだと思っていました。今までの五輪、ロックミュージシャンが出てもそれほどすごいものはなかったし。
 それが今回はまあ出るわ出るわ、そしてそれを実に伸び伸びとしたパフォーマンスで見せてくれました。つくづくすごいなあと思いました。そして、これを心から楽しめたことの幸福を、一介の音楽ファンオヤジとして噛み締めています。登場したミュージシャンやアーチストはもちろんですが、参加した選手、スタッフの全員に「ありがとうございました」と言いたい気持ちです。五輪に参加した人は全員が勝者だ。いつもそう思います。

閉会式最後の場面。こうして観ると、日本での中継が悲しくなってくるほどの盛り上がりだったことがわかります。よく聴くと一部歌詞が変わっていますね。さすがに多少は「配慮」したのかしら(笑)?

 追記:とうとうまったく登場しなかったエルトン・ジョン。間違いなく出て来ると思っていたのに。僕の記憶では曲もまったく流れませんでした。なぜなんでしょう?なにか事情があるんでしょうか?
 追記その2:次の開催国ブラジルのサンバチームもよかったです。4年後はまたさらに賑やかで美しいセレモニーになるんでしょうね。