「タモリ倶楽部」に冨田勲氏が!

 ちょっと前の話になってしまいますが、先週の「タモリ倶楽部」にあの巨匠冨田勲氏と松武秀樹氏が揃って出演されていました。あのモーグ窂(通称「タンス」ちゃんと稼働する!)も登場し、いろいろな逸話を伺いながら実際に音作りをするところをライヴで観られるという、僕のような人間には夢のような内容でした。
 冨田氏が初めてモーグを購入された際の数々のエピソードはこれまでも耳にする機会があったもので、そちらは知っていることが多かったですが、なにしろ興味深かったのは実際に音を作っていく過程が放送されたこと。この部分は本当にすごかった。前もって作っておいて流すという方式の方が安全だったでしょうに、ちゃんとカメラの前で説明しながら音を整えていく様は、本当にスリリングでした。面白かったのは音作り場面で冨田氏が「◯◯はもうちょっとこうして」と言うと松武氏がササッと動いて言われたとおりにマニュピレートするところ。「4人めのYMO」とまで称される松武氏が、冨田氏の前ではすっかり「弟子」だというのが面白かったです。
 ちょっと惜しいなと思ったのは実際の音作りが(尺の関係で)編集されていたところ。これはぜひノーカットで観たかった。それから(放送後に何人かの知り合いが指摘していましたが)番組の性質上、どうしても「バラエティ」としての紹介のされ方なので、巨匠お二人の「偉大さ」がもうひとつ伝わりきれなかったかなあ?というところ。僕はまあまあ楽しみましたが、録画した番組をもう1回観てみたら、確かに「もったいないなあ」と思ってしまう瞬間もありました。それから松武氏に関する言及がほとんどなかったのは、冨田氏メインという位置づけだったということなんでしょうね。ともあれ、とても貴重な番組だったことは事実です。よくぞ放送してくれました。
 今聴いているのは「月の光 Ultimate Edition」。あの名作をリマスタリングし、未発表曲や新曲を交えた最新アルバムです。アルバムのライナーには「タモリ倶楽部」で紹介されたエピソードが数多く紹介され、番組で実演した「口笛の音」の制作過程を楽曲にまとめた「口笛と鐘」という曲も収録されていて、「タモリ倶楽部」はこのアルバムをテキストとして作られたということがわかります。音はリマスタリングによってクリアーになりましたが、変に特定の音域を強調することなく上品な仕上がりになっています。
 SACD 4.0chサラウンドは当然として、なんとバイノーラル音源まで収録されていて、冨田氏が4チャンネル方式以来ずっと「リスナーを取り巻く音の雲」にこだわっていることもわかります。サラウンド方式が標準として定着した現代を考えると、時代がやっとトミタサウンドに追いついたと言えるかも知れません。上述したようにアルバムは数曲の新曲、未発表曲(アラベスク第2番!)があり、曲順も変わっていますが、オリジナルが小品集だったこともあり、旧盤に馴染みのある僕でも楽しみながら聴けました。昨年出た「惑星 Ultimate Edition」には違和感があった僕ですが、このアルバムは大丈夫です。
 テレビではもう80歳とは思えないほどお元気そうで、お金の話しをしてもちっとも下品に見えない冨田氏。そういえば11月には新曲のコンサート(それはオーケストラ作品らしいです)ではあの初音ミクと共演するとのこと。世界的権威といっていいお立場なのに、あの感性の柔らかさはすごいなあ。見習いたいです。いつまでもお元気で、素晴らしい音楽を創造してほしいものです。

月の光 Ultimate Edition

月の光 Ultimate Edition