タルカス聴き比べ

 最近相次いである曲が収録されたアルバムを入手しました。今日はそれがお題。曲はあの「Tarkus」そうELPのアレです。
 1枚目は佐渡裕指揮シエナ・ウインド・オーケストラ演奏のもの。これはあの吉松隆版の再編曲(再編曲は狭間美帆)。
 佐渡は過去「題名のない音楽会」で吉松版を指揮したこともあり、そのへんが縁でこの作品になったのでしょうね。で、肝心の演奏ですが、まとまったいいものでした。というか、CDになった吉松版がいかにも初演という感じで「こなれていない」印象で、「題名のない音楽会」放送のものもさほどよくなかったことを考えると、今回のものが一番いいのではないかと思われます。 編曲もね、大きな声じゃ言えないですが(?)こちら(狭間版)の方がいいです。再編曲なので大きな違いがあるわけではなく、どちらも原曲をわりと忠実に再現しているんですが、吉松版よりももっと伸び伸び、そして丁寧に演奏している感じです。指揮者の佐渡裕が「絶対に初演版を超える演奏をしてやる」と意気込んで、シエナがそれに応えたのかな?ちょっと意地悪な見方かも知れませんが、そんな気もします。吹奏楽オケなので少し縁遠いファンの方も多いかも知れませんが、これは聴く価値ありです。深く聴きこむのはこれからなので現時点で、という留保つきですが、僕は吉松版以上の評価をしています。
 そしてもう1枚。こちらがすごい。小埜涼子という女性の「Undine」というアルバム収録のもの。まったく未知のアーチストで偶然入手したようなものですが、このアルバム(インディー系の会社から出ているようです)に「Tarkus」が収録されています。これがすごい。原曲をぶっちぎるような速度で、まるで渋さ知らズのような音楽の奔流。確かに曲は「Tarkus」なんだけれど、そしてフレーズも和声も構成も別に変に変えているわけではないんだけれど、印象はまったく違います。
 これは間違いなく「原曲が別の人間というフィルターを通して生まれ変わった」とでもいうもので、これこそ真の「アレンジ」ではないかとまで思います。黒田亜樹のものは原曲を崩しすぎていて「Takus」として聴くと辛いものでしたが、小埜版はちゃんと原曲を生かしていて、そのうえで全く違う感動を加えることに成功しています。それにしてもすごいな。レコード会社のサイトで「1.5倍速バージョン」と書かれていましたが、確かに約15分という演奏時間は、それくらいの感じで、しかもものすごい疾走感です。
 上に書いたように渋さ知らズを連想させるようなものですが、驚くべきはこれが(パーカッションなどを除くと)小埜1人の多重録音だということ。実はこのアルバム、他にもライヒの「Piano Phase」サックス版とか、不思議な感じの女性ボーカルが絡む曲とかが並んでいて、一筋縄では行かない奥行きがある作品になっています。僕はノイズ系ジャズについてはあまり語る言葉を持たないのでひょっとしたら見当違いのことを書いているかも知れないし、その分野では了解済みのことで驚いているかも知れませんが、とにかくこのアルバム、そして「Tarkus」には圧倒されました。
 吉松隆は自身の「Tarkus」編曲に際して、こういう動きが続いてくれればなによりだというような発言をしていましたが、ちょっと意味は違うかも知れませんが、こういう作品が相次いでいることは、僕のようなファンには嬉しいです。五輪閉会式でエド・シーランが歌った「Wish You Were Here」に関して、彼の新曲だと思ったという若い(彼の)ファンがいたという報道がありましたが、それがきっかけとなり未知のものに目を向けることっていいことだし、僕達はそうやって視野と経験を広げていくんだと思います。「Tarkus」が(いくぶん年長の)ロックファン以外の人たちの眼や耳に触れるというのは、単に僕がこの曲が好きだから言うのではなく、音楽の聴かれ方として正しいし、今までこの曲を知らなかった多くの聴き手に届けられるのは、素晴らしいことだと思います。
 さて実は「Tarkus」の再録、最近もう1枚出たんですよ。なんとキース・エマーソンご本人がバンドとオケを駆使してのもの。もう店頭で見かけましたが、まだ未入手。なんか怖いよね、「出来がナニだったらどうしよう?」って思っちゃってまだ買えないでいます。過去にそういう作品をいくつも聞いてきたから(笑)ご本人の再録って一番怖い(笑)。

タルカス

タルカス

Undine

Undine

スリー・フェイツ・プロジェクト

スリー・フェイツ・プロジェクト

 追記 佐渡版「Tarkus」は数週間前の「題名のない音楽会」でも演奏されていました。富士山の見える会場での音楽祭で、ちゃんとお客さんの前で。いい演奏でした(キースのコメントまで紹介されていました)。いつも思うんだけれど、初めて「Tarkus」の説明を受ける「ロックに興味のないお客さん」って、どんな気持ちになるんでしょうね?ちょっと尋ねてみたい気がします。
 追記2 その佐渡版CD、曲解説がすごく面白いです。特に曲解説。「『タルカス』とはキースが創造した、アルマジロと戦車が合体したような怪獣の名前(アルバム・ジャケットにイラストが描かれている)。」というのも、少し事実と違うと思うんだけれど全体の勢いで読ませちゃう(笑)。以下、曲進行に応じてタルカス物語が書かれているんだけれど、それはあの見開きジャケットのイラストを説明しているもの。まあ、間違っちゃいないんでしょうが、もともと標題音楽ではなかったものを解説するとこうなっちゃうのかな?「Mass」の説明に「タルカスの前には神の力も及ばない事実が、皮肉たっぷりに奏でられる」って、僕には新解釈だわ(笑)。