「小学生のためのオペラ 魔笛」

 昨日(10月26日)、親子3人で神奈川芸術劇場に行って参りました。来日中のウィーン国立歌劇場が開催した「小学生のためのオペラ 魔笛」鑑賞のためです。
 今世紀に入ってからあの小澤征爾の発案で(ウィーンで)始まったという子ども向きプログラム。1階部分(劇場でいうと平土間)に席はなく、緋毛氈のような敷物の上に座って鑑賞しますが、ここに座れるのは小学生の子供達だけ、付き添いの親は上階の椅子席に座って観るという形式でした。ご想像がつくと思いますが、演奏と歌はその平土間で(観客である子どもたちと同じ高さで)展開しました。
 内容はあのモーツァルト魔笛」を大胆にダイジェストしたもの。それをパパゲーノ役の甲斐栄次郎氏が日本語で説明しながら進行しました。単に筋を話すだけではなく、オペラに必要なもの(衣装やセット、道具類、そしてもちろん演奏家や指揮者)の解説も入りました。演奏と歌が子どもたちの間近で展開、というか、演者のみなさんが子どもたちの間を行き来するので、最初は子どもたちもびっくりした感じでしたが、パパゲーノの乗せかたが上手なことと、そして内容のわかりやすさ(なにしろ、あの「魔笛」をタミーノとパパゲーノの冒険物語風に要約していたんですから)のおかげで、時間が進むにつれてだんだん楽しめているようでした。タミーノ王子が魔法の笛を吹くと登場する動物たちが大受けでした。演者さんが自分の近くにいると、こっそり衣装(ドレスの裾など)に触ろうとする子もいましたよ(微笑)。僕も触ってみたい(笑)。
 劇の中盤では筋から離れて「楽器の紹介」コーナーもありました。これも楽しかった。コントラバスの紹介では「弦楽器の弾き方には2種類あります。弓を使う方法と指で弾く方法です」といって両方やりましたが、ピチカートの方ではなんとジャズのフォービート、ブルーノートスケールを弾いてくれて会場みんなで手拍子も。クラリネットはあの「スーパーマリオブラザーズ」のBGMを吹いたり、トロンボーンピンクパンサーと吹いたり、工夫されていましたね(トロンボーンのとき妻がこっそり「これ、子どもたちにわかるかしら?」とつぶやいていましたが)。
 肝心の演奏は、素晴らしいものでした。神奈川芸術劇場は純粋なコンサートホールではないので響きがデッド気味だったんですが、それでも非常に豊かな音色でした。さすがウィーンフィル。いい演奏だったなあ。最近仕事では気持ちが塞ぐことも多い日々なんですが、このときは心からくつろげ、感動しました。もちろん歌声も。みんなよかったですが個人的にはモノスタトスとザラストロが特に、という印象でした。
 上記のように筋は大胆に要約されていて、なんと最後の曲はあの「パパパの二重唱」(笑)!だから夜の女王が滅びるところも大団円もありませんでした(ついでに書くと、大蛇も侍女も弁者も登場しません)。これには僕も少々驚いちゃいました。ここまでやるか!?僕みたいな凡庸な人間がダイジェストをすると、どうしても「ストーリーをかいつまんで」ってやっちゃいますが、この割り切り方は大したものでした。つまりこれは「初心者向け『魔笛』レクチャー」ではなくて「子どもたちに、オペラの楽しさと価値を知ってもらう」イベントだったのですね。だから筋立ては大きく刈りこんでも、残された歌や演奏は生き生きしていました。というか、そういうエッセンスが誰にでもわかるようにしてあったということなんでしょう。僕は大人で、オペラも初めてではないですが(それでも生の舞台を観るのはこれで2回目なんですが)、大いに楽しめて、勉強になりました。行けてよかった。カーテンコールのとき、文字通り「立ち上がって」拍手を送る子どもたちがたくさんいたのが印象的でした。みんな楽しかったかな?この夜の感動が子どもたちの糧になってくれたらいいなあ、そんな気持ちになれる、いい夜でした。
 追記:ちなみに終演後ドレミに「楽しかった?」と尋ねたところ「うん!」という返事。始まる前は(1人にされて)泣きそうだったくせに(笑)。「魔笛」のハイライトは時々家でも流しているので「知ってる曲はあった?」と質問したら「ボレロ!」という返事。ドレミよ、それは楽器紹介のときにピッコロが奏でたメロディでしょ(笑)!?
 追記その2:今朝のNHKニュースでこの催しは報道されたそうです。それを観た両親の話では、客席にマエストロ小澤征爾がいらっしゃったとのこと。へえ、気づかなかったよ。同じ会場にいられたなんてちょっと嬉しいです。妻とドレミにその話をしたところドレミから「オザワさんって誰?」と問われ思わず「『のだめ』の千秋先輩みたいにヨーロッパに渡って大活躍している指揮者だよ」と答えちゃいましたよ。そうしたらドレミ「ああ、そうか!」ですって(笑)。