アナログシングルの魅力を再確認(音以外の部分でも)

 「私は今69歳で、もうすぐ70歳になろうとしている。今こそ何が最良のオーディオ・フィデリティなのかを突き止めようと思っているんだ。その音楽に対して、もっとも適したメディアは何なのかということをね。(中略)私はこの12曲を新品のアナログ・レコードに刻むことにした。それが今回、私が作る音楽にとって最良の録音を得られるメディアだと判断したからさ」
 これは、今出ているCDジャーナル11月号(音楽出版社)に掲載されている松永良平氏のコラム「CDじゃないジャーナル」第0回でのインタビューの一部。CDが売れないという昨今、「CDを出さないアーチスト」にその理由を尋ねるというこの企画で、上記の発言はかのヴァン・ダイク・パークスです。彼の最近の録音はパッケージCDではなく、12曲をアナログシングル6枚に分けてリリースされていて、上記のインタビューはそのことを語っているものなのです。彼ならではの独特の説得力(?)がある発言ですね。
 僕自身は決して「アナログの音質はデジタルに対して優れている」とは考えておらず、「音が違って、みんないい」と金子みすゞのような気持ちで接していますが、アナログには根強い愛好家も多く、それはヴァン・ダイクのファン層と重なるでしょうから、きっと支持を集めるのではないかな。最近は新譜をアナログ盤も同時にリリースするアーチストが増えているらしいですし、以前のようなもろ「マニアック」な層から一歩踏み出した若い「アナログファン」が生まれているのかも知れません。実際アナログを再生するって、その行為自体も魅力的ですからね(ジャケットから盤をそうっと取り出し、注意しながらターンテーブルに乗せ、針を下ろし、その面が終わったら盤を裏返し、また同じことを行い、聴き終わったらまたそうっとジャケットに戻す、そして聴いている間はそのジャケットを眺めたりライナーを読んだりするという行為は、それ自体に得も言われぬ魅力があり、ちょっと踏み込んで考えると、どこかセクシーな営為にも思えます)。
 ちなみにこの12曲、CDこそないですがなぜかiTunes Storeで配信はやっていて、音楽そのものはアナログ環境のない人でも聴けます。僕もとりあえずそこで入手して聴いてみましたが、そこには僕達ファンには馴染みの深い、あのヴァン・ダイクの音楽がありました。ものすごい大編成ではなく、室内楽的楽器構成で、彼らしい音楽を奏でていました。あの、懐かしく美しく、そしてどこかに毒のある、彼にしか創れない珠玉の音楽たち。あの「Orange Crate Art」からデジタル楽器を抜いたような美しい音。初めて彼の音楽を聴いたのはもう20年以上前、そのとき聴いた「Song Cycle」には正直戸惑うばかりでしたが、今ではその美しさにも毒にも心酔します。
 シングルは日本のアマゾンで購入可能で、僕も全6枚中5枚まで入手しましたが、どれもしっかりしたジャケットに包まれています。そしてそこには、それぞれとても美しいイラストが描かれています。1枚のシングルにつき(表裏で)2枚のイラスト。イラストは表裏で共通する題材を描いていて、音楽の内容も含めて「コンセプトシングル」とでもいうべきものになっています(歌詞がわからないので厳密なことは言えないですが、音楽もイラストも全部含めての「総合芸術」ではないかと推察できます)。手に持ったときの感触やシングル独特の重みなど、僕くらいの年齢の音楽ファンには懐かしい感覚を覚えますが、若い音楽ファンには新鮮なのかな?上に書いたように、僕は必ずしも(音質という意味で)アナログ礼賛派(?)ではないんですが、この「モノとして手に持つこと」や「美しいジャケットを愛でる」感覚は、さすがにアナログ独特の、アナログからしか得られない大きな魅力だと思います。今夜は久しぶりに、アナログプレーヤー出してこようかな?

Wall Street/Money Is King [7 inch Analog]

Wall Street/Money Is King [7 inch Analog]

6枚のうちの1枚です。

 追記1 美しいイラストは1曲につき1つという計算で、全12種類あるんですが、そのうち1枚(「The All Golden/Sassafrass」)のイラストはあのクラウス・フォアマンが描いています。というわけで、ビートルズマニアのみなさんも要チェク(笑)!
 追記2 上には音だけならiTSでも入手可能と書きましたが、実は入手可能なのは11曲だけ。「Black Gold」とのカップリング曲「Aquarium」は配信されていません。全部聴きたいならアナログ盤買えってことですねミスター・パークス!?うーん、さすが、食えないなあ(笑)。