コールドプレイ「Live 2012」の圧倒的魅力

 僕のような人間には魅惑的なパーロフォンのトレードマークが冒頭に登場し、ある種の期待と予感を胸に観ていると、本編はそれをほぼ100%、いやそれ以上のレベルで上回るような内容でした。「Mylo Xyloto」のジャケットビジュアルをステージいっぱいに拡大したような巨大なセット(ピアノの鍵盤まで彩色されている)で展開するコンサートは、オープニングの「Hurts Like Heaven」から目いっぱいの突っ走りっぷり。演出も半端なく、再結成ピンク・フロイドのステージ4つ分くらいの膨大な光と紙吹雪で、テレビで観ているというのに圧倒されます。数カ所でシュートされたコンサートはどの会場も超満員で、それだけでも熱気あふれるものですが、とにかくこの演出の饒舌さはすさまじいです。
 コンサート自体の演出も相当なものですが、映像作品としての演出もかなり気合が入っていて、まるで映画のよう。アングルもカットもめまぐるしく変わり、コンサートのすべてを(観客席やバックステージ、メンバーのアップまで)観られます。それでいて印象が変にぶれないのはさすが。
 肝心の音楽についてですが、上記のステージセットの饒舌さ過剰さを超えるように豊かで美しいものです。彼らの音楽が持っているメランコリックなテイストはそのまま、巨大なスタジアムと派手なセットの中でも生き生きとしています。演奏も見事で、これを観ているとロックバンド、ライヴアクトとしての彼らの実力が相当なものだとわかります。本当にすごい。まばゆい光と刻々変化する画像にまったく負けていないというか勝っちゃっているその演奏は驚きです。そして幾度も映るオーディエンスの幸福そうな表情。折々起こる会場全体での大合唱からは、彼らとファンの間の親密な関係が読み取れます。
 最初っから飛ばしまくり走りっぱなしのコンサートは、「Yellow」や「Princess Of China」(リアーナ飛び入り)など何回もピークを迎えますが、個人的な感動は「Viva La Vida」からラストにかけてです。特に「Viva〜」、ピアノで奏でられるイントロのフレーズを追って会場全体で大合唱になり、そのまま曲に突入する様、そして「Viva〜」終了後「Everybody put your hands in the air」の声に導かれて会場全体が光の洪水になる「Charlie Brown」。バンドの巨大さと美しさを確かに捉えた瞬間。クリスがステージで語ったように「Unbelievable」「Beautiful」な光景・瞬間です(そして、その後に始まる「Paradise」と観客席のど真ん中スペースに移動して演奏される「Us Against The World」は言うまでもありません)。
 とにかく映像としてはカラフルで目まぐるしくさえあるこの作品でしたが、不思議と演出過剰な「見世物」な印象がないのは、とにかく真剣な姿勢が伝わってくるからかも知れません。随所にインサートされるメンバーのコメントやバックステージの様子がそれを裏付けています。「Via La Vita」以来絶好調の彼らの、一番いいところをキャプチャーしたものになっています。実は僕、この作品をツェッペリンのBDと一緒に買ったんですが、ゼップとは違う時代違う立ち位置で、それでもある意味でロックの一番いい部分を観られた・聴けた思い。2012年におけるロック最良の姿、真面目にそう思います。

ライヴ 2012(Blu-ray+CD)

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下の動画はオフィシャルではないみたいですが、これと同じものの高画質のプロショットが上記ソフトで堪能できます。