ボウイの新作はまさしく現役の輝きを放っていた

 まずは例のジャケットデザインにギョッとしました。僕だけじゃないよね(笑)?事前に公表されていたものは宣伝用のビジュアルだと思っていたら、そのまんまジャケットになっていましたが、これ、相当インパクトがあります。そのインパクトをスタートラインにしてデヴィッド・ボウイの新作は始まります。
 音の感触は非常にソリッド。ここしばらくのボウイ作品にあった、ある種のファジーさがなくて、お世辞ではなく鋭い音作りになっています。楽曲はとてもキャッチーなものと「Heroes」のころを思わせるような不気味な感触を持ったものがほぼ半々という感じですが、全体にはわりと聴きやすいというか、言葉は変ですがポップな感じ。捨て曲もなし(僕が購入した輸入盤にはボートラ表記で3曲収録されていましたが、これも含めていい曲ばかりです)、最初戸惑うけれど数回聴くと馴染んでくるというところは多くのボウイ作品に共通する感触ですね。「The Stars」「(You Will )Set The World On Fire」なんて素晴らしい輝きを持っています。
 歌詞には当初どこか老いと対決する姿を連想していたんですが(「The Next Day」の「木のウロの中で腐っていくけれども死ではない」など)、何回も聴くうちに、むしろもっと(広い意味で)攻撃的というか外向的な言葉が多いことに気づきました。音が厳しくソリッドなのでそれが相乗効果的に歌詞をもり立てるものが多いです(「If You Can See Me」や「How Does The Grass Grows」など。「I’d Rather Be High」など凄まじい。「Boss Of Me」は女性賛歌のような印象を受けましたが、音が甘くないので安直な褒め言葉と違うものになっています。さすがボウイ)。「Love Is Lost」で「Love is lost. Lost is love」なんてジョン・レノンそのまんまのフレーズまであって、ちょっと微笑ましいです。
 きっと多くのファンがその参加に期待したトニー・ヴィスコンティ。見事な仕事といえますが(実際、音は緻密でとてもいいです。ヘッドフォンで聴くと快感倍増)、彼がボウイと作り上げたグラム時代の雰囲気は希薄です。音の表層だけの印象では、ジャケットどおりベルリン時代かな?でもそれとて完全に繋がっているというふうでもありません。そうした事前情報や、ものすごく久しぶりに出たオリジナル作品ということで僕たちは反射的に、彼の過去の作品からの共通点や文脈を探してしまいますが(そして、そういう解釈も可能ですが)、そうしてしまうことで却って作品の真価を見誤ってしまうかもしれないとも思えます。ジャケットも人名も、かつてのボウイがやっていた「撹乱」で、作品の本音は別のところにある、要するにこれは集大成でも総決算でもなく「非常に優れた最新作」なんだ。ものすごく単純ですが、僕はそう思って毎日聴いています。
 ボウイくらいの年齢のアーチストが、しかも数年ぶりに新作を出すとどうしてもキャリア総括的なものではないかと勘ぐってしまいますが、どっこいこれはバリバリの「ニューアルバム」でした。「The Next Day」とはよくつけたものです。ここ数年は病気のことも含めて嫌な噂ばかり、ロンドン五輪のセレモニーであれだけクローズアップされてもご本人の登場がなかったので心配していたんですが、こんなスマートで現役ぶりに溢れる再登場、本当に嬉しいです。

The Next Day

The Next Day

 間抜けな追記:「Dancing Out In Space」という曲があります。軽快でいい曲ですが、僕はどうしても、この曲がピート・タウンゼントっぽいと思えて仕方ありません。「Dancing face to face」ってフレーズが出てくることやテンポなどからの単純な連想だと思うんですが、一度思っちゃうと抜けない(笑)。クレジット確認してもピートいないんですけどね(笑)。