ポール愛に溢れた「Pure McCartney」

 こんなに聴くのが待ち遠しかったアルバム、久しぶりです。ティム・クリステンセンの新譜「Pure McCartney」。タイトルがすべてを現しています。これはサー・ポール・マッカートニー70歳の誕生日に開催されたコンサートの実況録音盤。あの「RAM」をまるごと全部ステージで再現してしまったというもの(「Ram On」のリプリーズだけ省略)。ポールのファンでポールの曲を再現するということころまでなら普通に理解出来ますが、そのお題が「RAM」というあたりに強いこだわり、そしてティム(とバンド面々の)「マニアっぷり」が窺えます。
 ティムは今までの作品でも「その筋」のファンから絶大な支持を受けていた人ですが(最近のソロ名義のアルバムもみんないいです)、今回はそのへんの期待に120%応えてくれる内容でした。
 曲の再現度が水準をクリアしているのは当然ですが、その作り込みもすごい。「Three Legs」や「Uncle Albert」などではあの「変声ボーカル」もちゃんと再現しています。全体のクオリティは高いですが、それが少しも「お仕事」っぽくなくて、本当にやりたいことをやったという感じが伝わってきます。「RAM」再現後には「Coming Up」や「Maybe I’m Amazed」「Band On The Run」なども演奏してくれます。これまた選曲演奏ともに素晴らしいものばかり。「Live And Let Die」は爆発なしで楽器も限られていますが、ギター2本とヴァイオリンをフィーチャーしたアレンジは美しく引き締まったものでした。
 特筆すべきはボーカル。数人で分けあっていますが、みんな上手だしポールの楽曲をよく理解した歌いまわしで、本家の「変幻自在ボーカル」をうまく再現しています。
 現在出ている「初回生産限定盤」にはアルバムと同内容のDVDがついています。これもすごい。基本的にはCDと同内容なんですが、さほど大きくないハコ、シンプルなステージでポールの曲を演奏している面々の表情の楽しそうなこと。本当に好きなんだなあということが、音だけのCDよりもダイレクトに伝わってきます。上記の「変声」も含めて、音はすべて生演奏で出しています。「変声」もそうですが、「Uncle Albert」でのSE、「Coming Up」のサックス音もみんなその場で(色んなことをしながら)やり遂げています(どうやっているのかはネタバレになるのでここではヒミツ)。この手作り感覚も含めて、ティムの気持ちが伝わってきます。ポールのファンには必ず伝わる。ファンでなくても音楽ファンならばきっと、この音楽が作為的でないことはわかってもらえると思います。
 このアルバム、ジャケットももちろん「RAM」をモティーフにしています。そのへんの徹底ぶりも素晴らしい。どこを切ってもポール愛に溢れた、楽しくて感動できる、最高のポップアルバムです。こういうの、いいなあ。春にふさわしい、いい気分です。