喜国雅彦「ROCKOMANGA!」ついに刊行!

 つい先日書店に寄って、なんとなく冷やかしていて見つけた1冊の書籍。びっくり、出たんですね。喜国雅彦の「ROCKOMANGA!」(リットーミュージック刊)。
 雑誌「BURRN!」は僕の音楽嗜好とは少し違っていたのであまり熱心に読んでおらず、主に立ち読みだったんですが(すみません、時々は購入していました)、必ず目を通していたのが「ROCKOMANGA!」でした。4コマならぬ6コママンガで、ヘヴィメタルシーンをギャグで語るというものは、ありそうでなかったもの。作者の喜国雅彦が本当にメタルマニアなので、知識にも問題なく、なにより作品に「ヘヴィメタルに対する愛情」が溢れていて気持よく読めるものでした。基本的にギャグなのにアーチストやシーンをバカにしたようなものではないのは、なによりその愛情ゆえです。上記のように僕は純粋なメタルファンではないのでギャグや登場するアーチストをよく知らないことも多かったんですが、語り口で笑えたし、けっこう楽しみにしていたので昨年突然終了してしまったときは残念な気分でした。何年か前に単行本化の話もあったようなのに実現していなかったし、このまま消えてしまうのかなあ、別作品の単行本にでも抜粋でいいから収録してほしいなあとぼんやり、時々思い出しながら生活していたんですが、ついに、しかも作品まるごとの書籍化、嬉しい限りです。
 収録されているのは雑誌掲載のものすべてに若干の描き下ろし、作者へのインタビュー等。作品それぞれに作者の解説(?)もついていて、昔の作品でも今読んで楽しめるようになっています。インタビューに、連載開始当時(1980年代後半)メタルはバカにされていたので、コミックにすることでさらに偏見が助長されたり、メタルファンから批判されるのではないかと危惧したと語ってらっしゃるのを読んで、思わずそうだそうだと膝を打ったり、自分もそういう人間だったかもと反省してしまいましたよ。
 このコミック、僕のような人間にはメタルの勉強にもなって重宝しますが、個人的に一番の効用は「読んでいるとメタルを好きになれる」ということです。これこそまさに、この作品がメタルへの愛に満ちているゆえでしょう。愛情をこめて描いているので、その気持が伝わってきて、こっちまで感化されてしまうのです。実際僕はこの書籍を読んでから、家にあるメタル系の音源を聴き直しています。さすがに80年代以後のものは少ないですが、ガンズやヴァン・ヘイレンボン・ジョヴィメタリカあたりは持っているし、モトリー・クルーデフ・レパードアイアン・メイデンなどもベストなどを持っていたので、改めて、そして襟を正して聴いています。
 そしてこの書籍の影響で、僕は初めてクワイエット・ライオットのアルバムを入手しました。「Metal Health」と「Condition Critical」の2枚(2枚組コンピが安かったので買いました)。ほぼ未知のアーチストといっていいQRでしたが、このコミックに数回登場するケヴィン・ダブロウのキャラ立ちぶりと微笑ましい雰囲気に惹かれての購入でした。深読み不要の彼らの音楽は、外部の人間からは笑われることもあったろうし、実際QR自体、ロックシーンではあまり高い位置にいるバンドはありませんが(メタルで最初に全米チャートを制したバンドとして、トリヴィアルに語られることが多い)あの「Cum On Feel The Noize」を聴いていると高揚するのも事実です。実際メタルファンからの評価や受容はどんなものなんだろうな?正直もっといいバンド、曲も多いだろうし。でもこの「ROCKOMANGA!」でのケヴィンは、ものすごく愛すべき人物として取り上げられていて(25ページのvol.17ではオチで登場。訃報を話題にした203ページのvol.229は読むとしみじみします)、僕は他に情報がないせいか、とても好感がもてます。
 それもこれも、作者がこの分野の音楽に本当の愛情を持っているからこそ表現できたものだと思います。ロック系でもなんでも、時々批判書でもないのにとても読後感の悪い書籍がありますが、取り上げた題材に対して愛情のないためのものが多いです。「ROCKOMANGA!」は、作者のメタルに対する愛情と敬意に満ちていて、それを一流のギャグ作家が作品に昇華させたという意味で、下手なバイヤーズガイドや批評書をはるかに凌ぐ良書です。「『チャイニーズ・デモクラシー』」よりもメタラーから待望されていた」という帯のコピーもハッタリではない、と思います。

ROCKOMANGA!

ROCKOMANGA!

 追記:個人的に一番笑ったのは82ページの「Vol.85 こいつは誰だ」。雑誌に掲載されたのを読んだ時からずっと忘れられないものでした。レインボーのネタなのですぐに理解できたし。本当、そうだったよねこのバンド(笑)。