コンサート評 クラフトワーク(赤坂BLITZ)

 客入れBGMがまったく流れていない会場で待つこと数十分、開演時刻10分ほど前から聞こえ出した低いシンセ音に導かれるように、ほぼ定刻に始まったコンサートは、後方にある大画面の3D映像を、会場で渡されたメガネ着用で鑑賞するというスタイルでした。
 オープニングは予想どおり「Autobahn」。バックにあの、オリジナルジャケットにあった青空と高速道路が映し出されたら会場大喝采でした。
 今回のコンサートは「日程ごとに各アルバムのコンセプトを再現する」ということで、各日程にアルバムのタイトルが冠されていました。なので僕は勝手に「アルバム1枚まるごと再現して終了」と考えていました(やりそうだよねこのグループなら)。開演前まわりでも「今日のコンサートってアルバム1枚分の時間で終わるのかな?」なんて会話が聞こえていましたから、みんなそんな気分だったのかも知れません。
 で、オープニングから順番に「Autobahn」の曲が終了しましたが、そこでお開きにはならず、そのままコンサートが続行してくれたのは嬉しい大誤算。結果から書くと、コンサートは約2時間、ほぼベスト選曲を披露してくれました。だから「Trans Europe Express」も「The Robots」も「電卓」も「Showroom Dummies」もみんなやってくれました。「Radioactivity」では「福島」「放射能」「今すぐやめろ」などの日本語歌詞とテロップが入り、「Radioactivity」の文字の直前に「STOP」と表示されていました。会場も大歓声でしたよ。
 ステージは背面全体に達するスクリーン以外はまったくなにもなく、映画「トロン」みたいな衣装(わかるよね)の4人の男性が、機種不明のなにか(僕も含めてたぶん観客全員がシンセだと思っていますが、観客席からは楽器かどうかすら不明。ボタンが配列されたパネルかも知れないよね)を「操作」しているという感じで。例えば楽器の機種、アーチストの表情や言葉遣いなど、既知の知識や経験と繋げる手がかりゼロの状態で音楽と映像がやってきます。予想はついていましたが実際に観ると予想以上の不思議な時空でした。映像は基本的にはアルバムジャケットや曲のイメージを視覚化したもので、大きくイメージを変えたものは登場しませんでしたが、独特の「冷やり」とした感触はやはりクラフトワークならでは。
 最初のうちはクラシックのコンサートかと思うほど静かで「ドイツ人と日本人ばかりだとこんな雰囲気になるのか」なんてフザケたことを思いながら観ていたんですが、コンサートが進むにつれて変化が。少しずつですがみんな踊り出したのです。もちろんものすごく弾けた感じではないですが、前にいるお客さんの頭がリズムに合わせて揺れているのが確認できました。これは僕も同じで、コンサート用なのかいくぶんビートを強調して大音量で演奏(?)されるので、体が反応してしまうのです。あんなにクール(というより物理的に冷たい感じ)の空間なのに、だんだん不思議な高揚というか、身体に「効いて」くるのです。さすがクラフトワーク。ダンスミュージックに本質的な影響を及ぼした唯一の白人音楽家と云われる所以を実体験出来ました。
 どこまでも知的に、すべてをほぼ完全にコントロールしているという感じなのに気持ちが窮屈にならないのは、この「踊らせる」ことができるという彼らの音楽の持つ不思議な魅力のせいかも知れません。僕は最近個人的に「パンクの定義」というものを考えています。単なるスタイルや時代ではなく、破格で巨大な異物でありながら歴史を大きく変え、自分もまたその歴史の一部となりうる存在としての「パンク」。あくまで主観的なものになりますが、昨夜観たクラフトワークはその意味で紛れもなくパンクであり、紛れもなくロックンロールでした。僕はあと1回、15日の「The Mix」に立会います。どんな体験ができるか今から楽しみです。

Autobahn-Remastered

Autobahn-Remastered

 5月15日の追記
 本日も行って参りました。本日のメインは「The Mix」。もともとベスト的選曲のものでしたが、それぞれ(アルバム「The Mix」に準拠し)別アレンジでした。アルバムの性格上ビートが強烈で、8日以上にみんな踊っている感じでした(でもまあ、当然ですが頭を振っている程度でしたが)。8日にはない手拍子なども聴かれましたので、やっぱりみんな同じ印象を受けていたのかも知れません。もっと弾けたらメンバーも喜んでくれたかな?でもドイツ人と日本人ですからね、限界があります(笑)。
 ちなみに物販ですが、バッグやTシャツはすぐに売り切れになっていました。今日の開場前物販は5時15分から30分間という触れ込みでしたが、5時ちょうどくらいに僕が会場に着いたときはすでに長蛇の列、40分過ぎくらいにブースにたどり着いたときにはすでにCDボックスとポスター以外のものは売り切れになっていました(目の前で最後のTシャツが売れた)。明日の物販でも同じような感じになると思われますので、是が非でもバッグ(Tシャツ)が欲しいという方はお早めの出動をお勧めします。