みなとみらいオルガン1ドルコンサート

 昨日(5月23日)は時間を作って横浜の「みなとみらいホール」に、恒例の「オルガン1ドルコンサート」を聴きに行って参りました。ホール15周年を記念し「ルーシーと世界を旅しよう」がコンセプトの今年度のシリーズ、今回は「ルーシー、世界のへ扉」と題して、各国の曲をある意味脈絡なく披露するというプログラムでした(「ルーシー」とは大ホールのオルガンの名前です。ジョージ・ハリスンレスポールと同じ名前ですねw)。演奏されたのはボエルマン(フランス)、ラフマニノフ(ロシア)、アーレン(アメリカ)、M・レーガーとバッハ(ドイツ)。日本の曲は池辺晋一郎の「リチェルカーレ」が演奏されました。
 この日の演奏者は龍田優美子さんという方。みなとみらいホールが行なっているホールオルガニストインターンとして1年活動し、このたび卒業されるという若い演奏家でした。
 で、この人の演奏がとてもよかった!若々しいと言ってしまえばそのとおりなんですが、キビキビとした指使いとフレーズのひとつひとつを生き生きと演奏、というかもっとストレートに「元気な」という印象の演奏で、一瞬ものんびりしないものでした。なのに変に才走った感じもせず、楽しく聴けたのは驚きました。アーレンはあの「虹の彼方へ」を演奏したんですが、ストップを自在に使っていろんな音を出していて(本当に「音を出す」という表現がピッタリするような、演奏者も楽しんでいるような奏で方でした)ポピュラー編曲ものにありがちな「まあまあ感」のない、「演奏しきった!」という印象でした。
 上にプログラムを「ある意味脈絡なく」と書きましたが、一応のテーマには沿っていても、それは後付けのような気がします。きっと演奏者本人が「弾きたい!」という気持ちが先にあっての選曲だったんではないかな?この演奏会は、曲間に演奏者による短い紹介のスピーチが入るんですが、そこでの龍田さんは「この曲はパリで自分で初めて楽譜を入手したものです」(ボエルマン「ゴシック組曲」)「曲の舞台になった場所に実際に行ったときには感動しました」(アーレン「虹の彼方に」)「オルガンを専攻して、初めて弾いた曲です」(バッハ「トッカータとフーガ」)など、単なる曲の来歴やうんちくではなく、ご本人の思い入れを話していました。一見バラバラの選曲には、ご本人の思いが込められているのでしょう。聴いていて、ああ、これは全部自分で選んだ曲なんだなあ、と思えるもので、それがこのコンサートをいつもと違う色に彩っていた気がします。お客さんも演奏者のお話しに頷いたり笑ったりしていて、ふつうのクラシックのコンサートと違うムードが漂っていました(もともと1ドルコンサートはそういう雰囲気でもありますが)。
 どの曲も溌溂としていましたが、印象深かったのは「トッカータとフーガ」、この有名曲を、重厚でもヴィルトーゾ的でもなく「若々しく突っ走って」演奏してくれました。なかなか聴けないよね、「若いトッカータとフーガ」(笑)。演奏者の若さと喜びがモロに出ている、いい演奏でした。終演後の大きな拍手はその「喜び」が伝わったものに違いありません。事実、帰り道「よかったね」「楽しかった」という会話を耳にしました。
 龍田さんはインターンを終え、オルガニストとして文字どおり「世界」へ歩き始めることになるのでしょう。次に聴くときも、この「喜び」を共有できたらいいなあ、そんな気分になれる、いい午後でした。