ポール70年代の集大成「Wings Over America」ボックス

 前回に続いてポール・マッカトニー&ウイングス。今度は例の豪華セット、題して「スーパー・デラックス・エディション」(改めて書き写すとすごい題ですね。「メリー・ポピンズ」のあの言葉みたいw)。内容はまず音源系がリマスターの「Wings Over America」(CD2枚)、ボーナスCD(ロスアンゼルス、カウパレスでのライヴ8曲入り)、そして映像DVD。
 リマスターは素晴らしいものでした。リマスターと聞いて音楽ファンが「こんなふうになってくれたらいいなあ」と願う、そういう感じ。全体に鮮明になったのは当然ですが、特定の帯域が強調されることなく、全体が若返ったような気持ちよさ。どの楽器も鮮明になったし、どの楽器も「鳴っている」感じ。そしてもちろんあの素晴らしいポールのボーカルもぐんと前に出ています。基本的にはオリジナルどおりの編集だと思います(細かいところはわかりませんでしたが、「Let Me Roll It」と「Spirits Of Ancient Egypt」の間の編集もそのまんまでした)。これはもうオリジナルが名盤なので文句なしです。きっとファンのみなさん賛同していただけるでしょう。
 ボーナスCDはいかにもボーナスという感じのもの。別テイクとして楽しめるものですね。演奏、ミックスがいくぶん粗いのもボーナスらしい。正規盤にはない味わいです。それにしてもここに収録の「Live And Let Die」からもあの爆発音は削除、よっぽどあの音嫌いなんですねサー・ポール(笑)。
 DVDは興味深いコンテンツが収録されていました。「Wings Over The World」というもので、BBCが製作した特別番組。観ていて気づきましたが、日本のテレビでもオンエアされたはず(観た記憶がありました)。演奏シーンのピッチが少し高く、音楽コンテンツとしては厳しいものですが、当時のウイングスのリアルな姿を活写したものとして貴重です。番組はドキュメンタリーなので、ウイングス結成からの歴史も辿るという体裁をとっており、いろいろ珍しい映像も見られました(今観るとそのうちいくつかはもう既知のものではありますが、当時は珍しかったでしょう。今だっていつでも観られるものではないし、まとめ方が上手いのでこれは今後のポール愛好家にはマストになるでしょうね)。
 オーストラリアに降り立ったポールが記者と交わす会話「年齢は?」「33」「ロックを演奏するには年老いてしまったんでは?」「アイ・ドント・ノウ、ピークを過ぎたというのならコンサート会場に来て自分で確認してくれ」と言うシーンはファンには痛快な瞬間です。最後にリンゴが登場するのはファンには有名かな?このときのポールとリンゴの会話が仲良さそうで楽しいです。演奏シーンは基本的に「Rock Show」と同じものが多かったですが、一部そうでない部分もあって、マニアには楽しみ提供かな(フフフ)?もうひとつのコンテンツ「Photographer’s Pass」はツアー写真のギャラリー。モノクロですがこれもなかなか楽しいです(BGMは「Band On The Run」と「Soily」)。
 そして、実はこっちが本体?といえるほど豪華な「冊子」たち。「LOOK!」はリンダ撮影の写真集。移動中やバックステージでのメンバーや家族、スタッフを写した、リンダならではの写真ばかり。「WINGS OVER AMERICA」はそれよりもオフィシャルな写真と文章によるツアー記録。こちらはオンステージ中心のもので、こちらも見応えは十分。
 「The OCEAN VIEW」は画家ハンフリー・オーシャンによるドローイング集。調べたら10ccの「Original Soundtrack」のジャケットを描いた人だそうで、そういえば「Wings At The Speed Of Sound」の内ジャケやシングル「Silly Love Songs」(国内盤)のデザインもこの人だったんじゃないかな?一見シンプルながら写真とは違った意味でツアーの一場面を切り取ったものばかりのもの。画家ご本人によるツアー同行の経緯と絵の説明はわざわざ紙質にまでこだわった別紙になっており、これまた超豪華。
 そして最大の「超豪華」はツアー全体を俯瞰する、これまた「WINGS OVER AMERICA」というタイトルの革表紙本。ツアーの事後的な記録というよりもツアーに際して関係者に渡した資料を復刻したという趣のもの。それにチケットやセットリスト、パーティのパス、ツアーパンフレットなどのレプリカや写真などがインサートされています。ヘザーちゃんの落書きもそのまま再現されているので(署名入りの落書き(笑)でした)、これはポール本人の所有物がオリジナルなのかも知れません。
 この質と量はただごとではありません。僕は「RAM」のボックスに圧倒された者ですが、これはそれ以上といえます。やはりこのツアーが、70年代のポールにとって最大の仕事だったんだということが、物理的にも(?)理解できるセットでした。価格の高さからどんな人でも入手すべきものとは言えませんが、ファンならきっと、実物を手に取ればその価格に納得し、その価値がわかる、そういうセットだと思います。常々「デラックス・エディション」商売には懐疑的(で、スローハンドも太陽と戦慄も未購入)な僕も、これには降参です。

ウイングス・オーヴァー・アメリカ 【スーパー・デラックス・エディション】

ウイングス・オーヴァー・アメリカ 【スーパー・デラックス・エディション】

 追記その1:ボックス特典のひとつ「ハイレゾ音源ダウンロード」ですが、なぜか上手くいきません。コードを入力したあと「以下のアカウントでログインして」と出るんですが、僕はそこに出るアカウントを持っておらず、その先に行くことができません。ブログ友のどうぷさんがご教示くださったんですが、現在(6月4日現在)まだ上手くいきません。どうなってるんでしょう?
 追記その2:このボックス、宣伝では「7000セット限定」となっていますが、僕の持っているボックスのシリアルナンバーは「18509」となっています。ん(笑)?