マンシーニが編曲したザ・フーのカヴァー

 今日のお題はちょっと異色の、ザ・フーのカヴァー、なんとヘンリー・マンシーニによるカヴァーです。タイトルは「MANCINI CONCERT  Henry Mancini And His Concert Orchestra」(RCA LSP-4542アメリカ盤)。少し前に中古盤屋さんの「ムード音楽」棚を漁っていて発見した1枚。
 タイトルからわかるとおり、これは録音当時のマンシーニ楽団のコンサート用レパートリーを収録したもの(リリース年は1971年と表記されています)。このアルバムの最後(アナログだからもちろん「B面のラスト」ですよ)に「Overture From “TOMMY”」が収録されているのです。
 演奏はストリングス入の大規模なオーケストラによる演奏でなかなかゴージャス。管と弦の絡みもいい感じ。もちろんあの「Tommy」なんですが、ちょっとしたアレンジの随所にマンシーニらしい雰囲気が感じられて、「へえっ」と思いながら楽しませてくれます。冒頭に、原曲にはないストリングスによる少し悲しげなメロディが入りますがそれも違和感ありません。「1921」の旋律を高温のトランペットが奏でた後「See me,feel me」に相当する部分を弦が奏でるところなど、そのあとの「Listening to you I get the music」部分の主旋律を管楽器が奏でる裏で弦が鳴らすオブリガード群もスリリング、曲の終局部もポップスオーケストラらしい明朗さで、オリジナルとは大きく違いますが「聴かせる」アレンジです。あの「ロンドン・シンフォニー版トミー」の数段上の編曲センス。原曲がそれほどワイルドではないせいかこうした編曲に違和感がありません。というか、原曲のスケール感をマンシーニが上手に料理してくれていて、さすがだなあと聞き惚れてしまいます。
 このアルバムには他にもサイモン&ガーファンクルの編曲もの、「ジーザス・クライスト・スーパースター」編曲ものなど収録されています(その他にはアメリカの有名なマーチのメドレー、グレン・ミラーやスタン・ケントンなどのビッグバンドメドレーが入っていて、全5曲)。ジャケ裏の短いライナーによると、「世代の断層に架けられたマンシーニによる『音楽の橋』」ということで、当時のマンシーニが70年代という時期に新しい聴衆のために行なっていた試みのひとつではないかと推察できます。大ヒットしたかどうかは情報が足りずわかりませんでしたが、少なくともここで聴ける演奏は(S&Gもジーザス・クライスト・スーパースターも含めて)なかなかいい編曲、演奏です。ロックファンが「ロックの曲をポップスオーケストラで演奏」と聞いたときに連想するような安易さはありません。あくまでマンシーニのマナーではありますが、原曲に対するちゃんと真面目な姿勢が感じられていて、それが優れた演奏という結果に結びついています、少なくとも僕は好感をもって聴くことが出来ました。
 それにしても個人的に一番の驚きであり嬉しいのは、マンシーニのアルバムで「Townshend」という作曲クレジットを見られたことですね(笑)。ご存知でしたか皆さん。僕は想像もしていませんでしたよ。調べてみましたがこのアルバムはどうもCDにはなっていないようです。決して「これを聴かずにマンシーニザ・フーも語れない」というものではありませんが、もし機会があったらぜひぜひ聴いてもらいたい盤です。幅広い音楽を聴くファンならばきっと豊かな気分になれる、そんな演奏です。